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第11話 呼び捨てのほうが嬉しい

 俺とココ、それにニッキーをピンク色の光が包みこんだ。

 なんだか全身があたたかい。

 そして、シュワッという音を立てながら、そのピンク色の光はニッキーの身体に集中してまとわりつく。

 赤黒く、痛々しいやけどのあと。

 それが、あっというまに傷一つない綺麗な皮膚に修復されていく。


「な、なんだこれは……」

「こんなすごい魔法、見たことないぞ……」


 周りの村人たちが驚きの声を上げる。

 そのあいだにも、ニッキーの焼け焦げた皮膚が、どんどんと修復されていく。

 ほんの数十秒の出来事だった。

 ピンク色の光が音もなく掻き消えたあと、そこに残ったのは、完全に修復されたニッキーの身体だった。

 今はもう顔色も戻り、呼吸も正常だ。

 健康な人がただ眠っているだけにしか見えない。

 服ももとどおりだ。

 と、そこでニッキーが「うう……」とうめき声を上げた。


「ニッキー! 大丈夫!?」


 シュリアがニッキーに駆け寄り、その方を揺すぶると、ニッキーはぱっと目を開けた。


「あら? 姫様? 今、何時ですか? 恥ずかしいですわ、寝ちゃったみたい……。洗濯をしなくちゃ……」


 ボーっとした顔でそう言うニッキーにシュリアが抱きついた。


「よかった! よかった! よかった! 死んじゃったかと思った! よかった! よかった! よかった! ううーー!」


「あらあら、姫様、どうされたんですの?」


 まだよく状況がわかっていないニッキーに、シュリアは抱きついたまま大粒の涙をこぼし続けるのだった。


 ガルニが呆然とした顔で言った。


「なんと、……着ていた衣服まで元に戻っている……。こんな魔法はありえない……」


 ココが、俺に抱きついてきた。


「ほら、ほら、ほら、ほらね! 私の言ったとおりでしょう? 私の言ったとおりでしょう? 救世主様が、私たちを救いにいらっしゃったのですわ……」


 痛い痛い痛い!

 ココのやつ、俺をあんまり全力で抱きしめるもんだから、息ができないぞ。

 しかも、こんなときにこんなことを考えるの、自分でもどうかとは思うけど、ココのすごくでかくて柔らかい部分が押し付けられて……。

 この子、身体は細いのに胸だけはすげえでけえな……。


「救世主様、さすがですわ!」


 俺の胸のあたりに顔をうずめてグリグリしているココ。

 そしてぱっと顔をあげた。

 目尻に涙を浮かべ、眉をハの字にして、


「救世主様、ありがとうございます。ありがとうございます。私のもとに来てくださってありがとうございます……! 誰も、誰も私の言うことを信じなかったのに……。いつか、いつか、世界を、私を救いに来てくださると……! それだけを信じて、信じて、信じて、生きてきたのですわ……!」


 それを見ていた村人の女性がぽつりと呟いた。


「本物だわ……」


 そのとなりの男性も頷く。


「ああ。あのダークドラゴンを倒し、絶対に治癒不可能なほどの大怪我まで治し……服まで復活させた……宮廷魔術師でもこうはいくまい……」

 そして、俺と、俺に抱きついているココを中心に、みなが両膝を地面につけ、両手を組み合わせて俺たちへと祈りを捧げ始めた。


 ええ……なんだこれ。


「ねえ、トモキ……いいえ、トモキ様」


 シュリアが言った。


「本当に、あなたはこの世界を救う救世主様なの?」


 いいや、多分、ちがうはずだが……。

 転生するとき、女神様にそんなことは聞いてないし……。


「そうだ、トモキ様、他にも怪我人はたくさんいるの。その奇跡でなおしてあげられないかしら?」


「いや、自分でもどうすればいいのかわからんぞ。なんかココと手を繋いだらそうなっただけで……あと様つけないでくれ。トモキ様とか言われたらモゾモゾするわ。トモキと呼んでくれよ」


 ま、女の子に下の名前で呼ばれるのって、なんかいいでしょ。

 35年間一度もなかったけど……。

 『様』をつけられるより、むしろ呼び捨てのほうが嬉しい。


「そうなの? じゃあ、トモキ、って呼ぶわね……。でも、そう……やはり女神様の奇跡は、意図的には発揮できないのかしら……」


 がっかりするシュリアを見て、俺も胸が痛む。


「よし、じゃあいろいろ実験してみよう」


 と俺は言った。



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