俺とココ、それにニッキーをピンク色の光が包みこんだ。
なんだか全身があたたかい。
そして、シュワッという音を立てながら、そのピンク色の光はニッキーの身体に集中してまとわりつく。
赤黒く、痛々しいやけどのあと。
それが、あっというまに傷一つない綺麗な皮膚に修復されていく。
「な、なんだこれは……」
「こんなすごい魔法、見たことないぞ……」
周りの村人たちが驚きの声を上げる。
そのあいだにも、ニッキーの焼け焦げた皮膚が、どんどんと修復されていく。
ほんの数十秒の出来事だった。
ピンク色の光が音もなく掻き消えたあと、そこに残ったのは、完全に修復されたニッキーの身体だった。
今はもう顔色も戻り、呼吸も正常だ。
健康な人がただ眠っているだけにしか見えない。
服ももとどおりだ。
と、そこでニッキーが「うう……」とうめき声を上げた。
「ニッキー! 大丈夫!?」
シュリアがニッキーに駆け寄り、その方を揺すぶると、ニッキーはぱっと目を開けた。
「あら? 姫様? 今、何時ですか? 恥ずかしいですわ、寝ちゃったみたい……。洗濯をしなくちゃ……」
ボーっとした顔でそう言うニッキーにシュリアが抱きついた。
「よかった! よかった! よかった! 死んじゃったかと思った! よかった! よかった! よかった! ううーー!」
「あらあら、姫様、どうされたんですの?」
まだよく状況がわかっていないニッキーに、シュリアは抱きついたまま大粒の涙をこぼし続けるのだった。
ガルニが呆然とした顔で言った。
「なんと、……着ていた衣服まで元に戻っている……。こんな魔法はありえない……」
ココが、俺に抱きついてきた。
「ほら、ほら、ほら、ほらね! 私の言ったとおりでしょう? 私の言ったとおりでしょう? 救世主様が、私たちを救いにいらっしゃったのですわ……」
痛い痛い痛い!
ココのやつ、俺をあんまり全力で抱きしめるもんだから、息ができないぞ。
しかも、こんなときにこんなことを考えるの、自分でもどうかとは思うけど、ココのすごくでかくて柔らかい部分が押し付けられて……。
この子、身体は細いのに胸だけはすげえでけえな……。
「救世主様、さすがですわ!」
俺の胸のあたりに顔をうずめてグリグリしているココ。
そしてぱっと顔をあげた。
目尻に涙を浮かべ、眉をハの字にして、
「救世主様、ありがとうございます。ありがとうございます。私のもとに来てくださってありがとうございます……! 誰も、誰も私の言うことを信じなかったのに……。いつか、いつか、世界を、私を救いに来てくださると……! それだけを信じて、信じて、信じて、生きてきたのですわ……!」
それを見ていた村人の女性がぽつりと呟いた。
「本物だわ……」
そのとなりの男性も頷く。
「ああ。あのダークドラゴンを倒し、絶対に治癒不可能なほどの大怪我まで治し……服まで復活させた……宮廷魔術師でもこうはいくまい……」
そして、俺と、俺に抱きついているココを中心に、みなが両膝を地面につけ、両手を組み合わせて俺たちへと祈りを捧げ始めた。
ええ……なんだこれ。
「ねえ、トモキ……いいえ、トモキ様」
シュリアが言った。
「本当に、あなたはこの世界を救う救世主様なの?」
いいや、多分、ちがうはずだが……。
転生するとき、女神様にそんなことは聞いてないし……。
「そうだ、トモキ様、他にも怪我人はたくさんいるの。その奇跡でなおしてあげられないかしら?」
「いや、自分でもどうすればいいのかわからんぞ。なんかココと手を繋いだらそうなっただけで……あと様つけないでくれ。トモキ様とか言われたらモゾモゾするわ。トモキと呼んでくれよ」
ま、女の子に下の名前で呼ばれるのって、なんかいいでしょ。
35年間一度もなかったけど……。
『様』をつけられるより、むしろ呼び捨てのほうが嬉しい。
「そうなの? じゃあ、トモキ、って呼ぶわね……。でも、そう……やはり女神様の奇跡は、意図的には発揮できないのかしら……」
がっかりするシュリアを見て、俺も胸が痛む。
「よし、じゃあいろいろ実験してみよう」
と俺は言った。