「お断りします。僕には、そんなことする義務ありませんので」
この期に及んで悪びれもない相手。俺は言葉を失ってしまう。
(ここまでくると、清々しくて感服してしまうな。悪い意味で)
そんな複雑な心境の中、目の前の腹黒はスンとした冷めた目で真っすぐと見てきた。人当たりの良い目尻の下がった目つきを細めジトリと見据える、が正解かもしれない。
「ふぅ~………」と、どうしたものかと言わんばかりの深いため息をつく相手。そんな様子に、こっちがカスハラしているような気分になっていく。
(そもそも、こっちが被害者なのに………なんで非常識扱いされないといけねぇんだッ!?)
そう、今回は本人に無断で、しかもリクエストと違う内容で書籍化をした。
(だから、━━━俺は間違えたことを言っていないッ!!)
再び、怒りが込みあがっている中、腹黒次男坊が口が開かれる。
「だって………、」
「…………(次は、何を仕掛けるつもりだ?だからって逃すつもりは無い!!)」
「今回は猿堂さん落札してませんですし。入札したお金は受け取ってませんですから」
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「……………HA?」
「いや、ですからね。この依頼小説を落札した人物は、〈別の人〉ってことです」
『ほら、ここに記載されてますよ』と特集ページに指を差してきたので、誘導されるがまま確認すると……
「……………竜泉寺 巴?」
思わず、載っていた文字を口にしてしまう。状況が理解できないまま、何度も特集ページに記載されている選考結果の欄を確認をする。
もしかして偽装冊子じゃないか、と思い、他ページをパラパラと目を通しても俺が見た内容を同じ。探っても冊子の中身は本物ということになる。
(それにしても……この名前どこかで聞いたことがあるような?)
「そうですよ。今回の落札者は〈竜泉寺 巴〉さんって方なんです。なので、今回は………」
「ちょっと待てよ!有り得ないだろ!?」
「人の会話中に遮るの止めてもらえますぅ~?」
相手の癪に障ったのか、不機嫌だったのは更に上回り、声色も社交辞令だった人当たりの良いものから急降下になってしまった。━━━というか、ガキかよッ!コイツ!!
そういうところは、嵐に似てやがる……
だが、ここで気になったことが生まれる。
「今回の落札額はいくらだ?」
「あの~~、それ個人情報になるので」
「━━━HAッ!墓穴掘ったな、宇宙くん」
「……?僕、回りくどい話嫌いなので、単刀直入で言ってください」
「有り得ねぇ話なんだよ」
「……なにがです?」
「あのone day限りのイベントで俺の五十万円以上に出せる奴なんか━━……」
「あぁ、それなら……巴さん、普通に百万円出しましたよ」
…………負けた。完全なる敗北、the end.
「なんというか……この結果を見ると、腐女子の推しにかける思いっていうか、経済力って凄いなぁって思うばかりですよね~~」
「……?婦女子って、相手は女なのか!?」
「え……?そりゃそうでしょ。腐女子だから。腐った女子と書いて、腐女子ですからね」
「ん?え?腐った……女子??何を言っているんだ?君は」
「いや……この行動力と経済力からしてみて、推しにかける信念がそこら辺の腐女子以上かもしれないな。エベレスト級の信念、っていうか……」
「……?さっきから、ブツブツと言ってどうした?というか、腐女子って……」
「この場合は………腐女帝、かな?あの人の場合は」
さっきから意味不明な単語を交えて、独り言を呟き始める次男坊。その表情は、お手上げって言わんばかりの呆れと疲労が混じっている。そして、
「海里兄さん、このことを知ったらメンタルが正常に持つかな……?あの人、巴さんに夢を持っているみたいだし」
「……君、さっきから何を言っているんだ?」
「あぁ!すみません。つい分析に入ってしまって。巴さんの行動力に驚いてしまいましてね」
「………知り合いなのか?この巴さんって人と」
「ええ、だってこの人………海里兄さんの奥さんなので」