………………O,KU,SA,N?
「━━━━奥さんッ!!?」
予想外の展開に思わず大声を出してしまった俺。その声に驚いてしまったのか、目の前の次男坊は咄嗟に耳を塞いだ。
「いきなり大声を出さないでくださいよ!猿堂当主。もし、僕の鼓膜が破れてしまったらどうするんですか!?厄除師のシゴトでもないですから労災が下りないんですよ!!」
「い、いや……でも、神龍時当主の奥さんって今、君が………」
「というか、店内ですので大声禁止だってさっきから言ってるでしょう?もう、脳みそがチンパンジー以下なんですか?あなたは」
「━━~~ッ、………失礼した。それで続きを……」
「え?嫌ですよ。ここからは家族のプライバシーですし」
「ほら、千円。これなら良いだろ?」
ここで自身の財布から雀の涙しか残っていない金を出す。本来だったら、こんなことはしない。する意味もないからな。
でも………風羅ちゃんと結婚したら、コイツらは俺の義兄になる。そして、義兄の奥さん……つまり、俺の義姉になるということ。
(今のうちに、情報を集めて損はない)
その為の軍資金だと思えば、安いものだ………
「え?これだけで交渉成立すると思っているんですか?猿堂当主」
「………HA?」
「それなら僕は帰りますね。では………」
「待て待て待て待て待て待て、ちょっと待とうか。な、NA?」
「こういうのって………もう少し色をつけるものだと思うけどな(ボソッ)」
「………………ほらよ」
財布から今の全財産である五千円を出すと、ぱぁ、向日葵のように表情が明るくなった次男坊。それは眩しいくらいに上機嫌にだ。
(久々に風羅ちゃんを誘って、飯を食おうと思っていたのにYO~~~~ッ)
そんな相手と真反対にどん底に暗い気持ちになった俺は、本日の夕飯代が消えたことに心の涙を流す。
「え~!いいですかぁ!?なんか、すみませ~~ん♪気を使わせてしまってぇ。あ、さっきの続きなんですけど、巴さんは海里兄さんの奥さんでしてね。最初は、親同士で決めた婚姻でしたけど、最近無かったことなったんですよね」
「……無かったことになった?」
「まぁ、こんな時代だから親が本人たちの気持ちを尊重にって考えに変わったそうで。確か一年前だったかな……、海里兄さんとの婚姻を引き受けた巴さんに気を使わなくていいと伝えようと巴さんの実家へ訪ねたみたいですよ」
「ふ~ん、それで?」
「え?なんですか?その返答は。馬鹿にしてます??せっかくわざわざ教えてやろうと思ってたのに……まったく」
「え!?いや……悪い。じゃなくて、申し訳ない」
「分かれば良いんですよ。だから、嵐と同じ学習能力がないって言われるんですよ、アンタ。続きなんですけど…」
俺の返答に嫌味にとってしまった次男坊。声のトーンが下がり、つらつらとクレームの爆弾を投げてきた。嵐から六つ子の中でプライド高いと聞いていたが、ここまでとは……コイツ、
(━━━面倒くせぇ~~~~ッ!)
「お互いに初対面し話合いしたら結婚することになったそうですよ」
「………………HA?え?なんで??」
「さぁ?意気投合したんじゃないですか?」
「意気投合……」
「話聞いた限りだと、巴さんのギャップが海里兄さんの心に響いたらしいですよ」
「心に響いた……例えば?」
「話し方の気品さ、相手への気遣い。あと………趣味とか?」
「ーーッ!趣味ってなんDA?」
「海里兄さんの奥さんの趣味は確か………」
(コレを利用して、外堀から埋めれば風羅ちゃんとの結婚の流れに変えることができる!!それに話を聞いている限りだとあの堅物長男は、巴って女に惚れこんでいるな……つまり、この女の鶴の一声で状況が変化するってこと。━━━このチャンスを逃さねぇ!!)
「(………って思っているんだろうな、このチンパンジーは。だから、嵐と同レベルなんだよ。ぷふふ〜)読書と絵画収集、あとドラマ鑑賞らしいですよ」
「え?……それだけ??」
「はい、そうですよ」
「いや……他に何かあるだろ!?俺、五千円払ったんだぞ!!」
「本当に、(僕が執筆した嫌がらせ兄弟BL本の)読書に、絵画収集(という名の子島が描いたコミカライズ版の兄弟BL漫画)とドラマ鑑賞(という肩書きのアダルトBLアニメ)ぐらいですよ。ちなみに、家族愛(という表向きの兄弟BL)をテーマにした保管庫(という名のBL博物館)をご実家の蔵に作ったと聞いてます」
あっけなく終了した情報提供。はっきり言おう……
「ま━━━━ったく、役に立たない情報じゃないかYO!お前ふざけんな!五千円返せよ。完全に詐欺じゃねぇか!!」
「あの~~、猿堂当主。仮にも貴方は猿堂家の長で、僕より年上じゃないですか。自分が決断したことを人のせいにするのは大人としてどうかと思いますよ?それに」
「それに………?」
「━━━人生は自己責任、っていうじゃないですか」
「………ッ、」
「どんなに予測しても上手くいかないことはある。それはどんなことでも。猿堂当主にだってこれまであったでしょう?」
「まぁ、確かにな」
主にお前の兄弟である嵐に対しては………、という言葉は吞みこんだ。本当はクレームを言いたい。
(お前の弟は、コンビで初シゴトを始めて五分後。勝手に単独行動をして、何処から拾ってきたか分からないキノコを鍋にして食おうとしたことを……。しかも禍々しいカラフル椎茸を煮て『猿堂先輩、せっかくだから親睦深めるためにパーティーしません?』とかクレイジーKYなことを言ってきたことも)
でも、それを言ったら、また話がややこしくなりそうだから必死に堪える。そんな心中に気づいていない腹黒次男坊は真剣な顔つきで言葉を続けた。
「人生って、”表裏一体”だと僕は思うんですよね」