春の陽光が王宮の庭園に降り注ぎ、色とりどりの花々が咲き誇っていた
エリアナ王女は白いドレスの裾を翻しながら、薔薇の小径を歩いている
19歳になった彼女の美しさは国中の話題となっていたが、それ以上に彼女の聡明さと優しさが人々に愛されていた
「エリアナ、また1人で散歩か」
振り返ると、兄のアレクサンダー王子が穏やかな笑みを浮かべて立っていた
24歳の彼は次期国王として相応しい威厳と知性を備えており、妹を深く愛する優しい兄でもあった
「お兄様、お疲れ様でした、今日も朝から政務でしたね」
エリアナは兄の労を労った
アレクサンダーは父王を支えながら、自らも国政に深く関わっていた
特に近年は周辺諸国との外交に力を注いでおり、その手腕は各国からも高く評価されていた
「ああ、隣国のセレスティア王国との貿易協定の件で忙しくてな・・・だが、それよりも大切な話がある」
アレクサンダーの表情が少し改まった
エリアナは何かを察し、兄の言葉を待った
「父上がお前を呼んでおられる・・・重要な話があるそうだ」
王宮の奥深く、謁見の間ではマクシミリアン国王が王妃イザベラと共に娘を待っていた
50を過ぎた国王は白髪が増えたものの、その眼光は鋭く、長年の統治で培われた威厳に満ちていた
一方、王妃は40代半ばでありながら美しさを保ち、夫を支える賢母として国民からも慕われていた
「エリアナ、来たか」
国王の声は優しく、しかし厳粛だった。エリアナは深々と頭を下げた。
「父上、お呼びでございますか」
「うむ。実は、セレスティア王国からの提案があってな」
王妃が夫に代わって話を続けた
「あなたとセレスティア王国の第3王子、ルシアン殿下との縁談の件よ」
エリアナの心臓が高鳴った・・・縁談の話は以前から噂には聞いていたが、ついに正式な話として持ち上がったのだ
「セレスティア王国は我が国より軍事力に優れ、我が国は経済面で彼らを上回っている・・・両国が手を結べば、この地域の平和と繁栄がより確実なものとなる」
国王の説明は政治的だったが、その奥には娘への愛情が感じられた
「もちろん、お前の意思を無視するつもりはない、まず、ルシアン王子と会ってみることから始めよう」
エリアナは静かに頷いた
政略結婚とはいえ、両国の未来がかかっている
そして何より、父母と兄が自分を信頼してくれていることが嬉しかった
その夜、エリアナは自室のバルコニーから星空を見上げていた
未知の王子との結婚について考えを巡らせていると、背後から足音が聞こえた
「眠れないのか?」
アレクサンダーが心配そうな表情で近づいてきた
「少し緊張しているだけです、お兄様こそ、遅くまでお疲れ様です」
「俺のことより、お前の心配の方が大事だ」
アレクサンダーは妹の隣に立ち、同じように星空を見上げた
「エリアナ、もし少しでも嫌だと思ったら、遠慮なく言ってくれ・・・俺たちはお前の幸せを一番に考えている」
「ありがとうございます、お兄様・・・でも、私も王女としての責務を果たしたいのです」
エリアナの決意を感じ取ったアレクサンダーは、妹の頭を優しく撫でた
「お前は立派だ、だが、決して一人で背負い込む必要はない・・・俺たちがついている」
兄の言葉に、エリアナの心は温かくなった
不安はあったが、家族の愛に支えられて、新しい未来への一歩を踏み出す勇気が湧いてきた