1週間後、セレスティア王国の使節団が、隣国アルテリア王国に到着した
エリアナは緊張と期待を胸に、正装を身に纏って謁見の間で待っていた
深い青色のドレスは彼女の美しさを際立たせ、首元に光る真珠のネックレスが上品さを演出していた
「セレスティア王国第3王子、ルシアン・アルベルト・フォン・セレスティア殿下のご入場です」
重厚な扉が開かれ、金髪に青い瞳の青年が堂々と入ってきた
22歳のルシアン王子は、端正な顔立ちと引き締まった体格を持ち、騎士としての訓練を積んだことが一目で分かる立ち居振る舞いだった
エリアナは初めて見る王子に、予想以上の好印象を抱いた
威圧的でも傲慢でもなく、むしろ知性的で穏やかな雰囲気を纏っていた
「アルテリア王国国王陛下、王妃陛下、そしてエリアナ王女殿下にお目にかかれて光栄です」
ルシアンの挨拶は丁寧で、声音も心地よかった
彼もまた、エリアナの美しさと品格に心を奪われていた
政略結婚と分かっていても、これほど美しく聡明そうな王女と結婚できるなら、幸せなことだと思った
「ようこそ、セレスティア王国へ・・・ルシアン王子、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
マクシミリアン国王の歓迎の言葉に、ルシアンは深く頭を下げた
「この度は、貴重な機会をいただき、心より感謝しております」
正式な挨拶が終わると、両国の関係者たちは別室に移り、エリアナとルシアンは二人だけで話す時間を与えられた
王宮の庭園を歩きながら、二人は緊張を解きほぐしていった
「エリアナ王女、この庭園は本当に美しいですね・・・特にこの薔薇は見事です」
「ありがとうございます・・・母上が大切に育てている薔薇なのです、ルシアン王子は花がお好きなのですか?」
「ええ、実は騎士としての訓練の合間に、庭仕事をするのが趣味なんです・・・土に触れていると、心が落ち着くんです」
意外な一面を知って、エリアナは微笑んだ
王子らしからぬ庶民的な趣味に、かえって親しみやすさを感じた
「私も庭仕事は好きです、特に薬草を育てることに興味があります」
「薬草ですか?それは珍しい」
「はい、民の病気を治すのに役立てればと思って、勉強しているのです」
ルシアンは感心した・・・
美しいだけでなく、民のことを真剣に考えている王女に、心からの尊敬を抱いた
「素晴らしいお考えです、僕も民のために何ができるか、いつも考えています」
二人の会話は自然に弾み、時間を忘れるほどだった
政略結婚という枠を超えて、人としてお互いを理解し始めていた
夕刻、ルシアンは一旦宿舎に戻り、エリアナは家族との夕食の席についた
「どうだった、エリアナ?」
王妃が優しく尋ねた
「思っていたより・・・とても良い方でした」
エリアナの頬が薄く染まった
その様子を見て、アレクサンダーは少し複雑な表情を見せた
妹の幸せを願う一方で、まだ見ぬ相手に対する警戒心を完全に拭い去ることはできなかった
「そうか、それは良かった・・・明日はもう少しゆっくり話ができるだろう」
国王も安堵の表情を見せた
その夜、ルシアンは宿舎でセレスティア王国から同行した重臣、グレゴリー卿と話していた
「王子、アルテリア王国の印象はいかがですか?」
「想像以上に素晴らしい国だ、そして、エリアナ王女は・・・ 本当に美しく、賢明な方だった」
ルシアンの言葉に、グレゴリー卿は安心した
しかし、その表情には一抹の陰りがあった。
「それは何よりです・・・ただ、王子、我が国の事情もお忘れなく」
ルシアンの表情が曇った
セレスティア王国の真の目的を思い出したのだ
この結婚は確かに政略結婚であり、最終的にはアルテリア王国の豊かな経済力を我が物にすることが狙いだった
「分かっている。だが・・・」
「だが、何でしょうか?」
「いや、何でもない」
ルシアンは心の奥で葛藤していた
エリアナに対する純粋な好意と、自国の野望との間で揺れ動いていた
しかし、今はまだその葛藤を表に出すことはできなかった