翌日から1週間、ルシアンはアルテリア王国に滞在し、エリアナとの時間を過ごした
2人は王宮内だけでなく、街へ出かけて民の暮らしを見て回ったり、郊外の森で乗馬を楽しんだりした
「ルシアン様、こちらは我が国の孤児院です」
エリアナが案内したのは、王宮から少し離れた場所にある孤児院だった
そこでは戦争や災害で親を失った子どもたちが、修道女たちの世話を受けて暮らしていた
「エリアナ王女!」
子どもたちがエリアナを見つけて駆け寄ってきた
彼女は一人一人を抱きしめ、優しく話しかけていた
「みんな、元気にしていた?今日は特別なお客様をお連れしたの」
子どもたちはルシアンを見上げて、少し緊張していた
しかし、彼が膝をついて子どもたちと同じ目線になると、緊張が和らいだ
「はじめまして。僕はルシアンです。みんなと遊べるかな?」
「遊ぼう、遊ぼう!」
子どもたちはすぐにルシアンを受け入れ、一緒に遊び始めた
エリアナはその光景を見て、心が温かくなった
地位や立場を超えて、純粋に子どもたちと接するルシアンの姿に、深い感動を覚えた
夕方、孤児院を後にする時、1人の少女がルシアンの手を引いた
「お兄ちゃん、また来てくれる?」
「ああ、また来るよ。約束する」
ルシアンの優しい笑顔に、エリアナは確信した
この人なら、きっと良い夫になってくれる
そして、民のことを真剣に考えてくれる
その夜、王宮の庭園で二人きりになった時、エリアナは意を決して話しかけた
「ルシアン様、今日は本当にありがとうございました、あなたが子どもたちと接する姿を見て、とても感動しました」
「いえ、僕の方こそ貴重な経験をさせていただきました・・・エリアナ王女が普段からあの子たちを大切にされているのが、よく分かります」
「私たちは王族として生まれました・・・だからこそ、民のために何ができるかを常に考えなければならないと思うのです」
「まったく同感です、僕も常にそう思っています」
二人の心は確実に近づいていた・・・
政略結婚として始まった縁談が、真実の愛へと変わりつつあった
「エリアナ王女、お聞きしたいことがあります」
「何でしょうか?」
「もし、僕たちが結婚することになったら・・・本当に幸せになれると思いますか?」
エリアナは少し驚いた。政略結婚の中で、愛情について語ることは珍しかった
しかし、ルシアンの真剣な眼差しに、彼女も正直に答えた
「私は・・・はい、きっと幸せになれると思います、ルシアン様と過ごしたこの一週間で、あなたがどれほど優しく、誠実な方かが分かりました」
「僕も同じ気持ちです・・・エリアナ王女、あなたは僕が思い描いていた理想の女性そのものです」
月明かりの下で、二人は互いの手を取り合った
政略結婚という現実を超えて、純粋な愛情が芽生えていた
しかし、その様子を遠くから見つめる影があった
アレクサンダー王子だった・・・
彼は妹の幸せそうな表情を見て安心する一方で、ルシアン王子に対する一抹の不安を抱いていた
長年培った政治的嗅覚が、何かを察知していたのだ
(このセレスティア王国の王子、本当に信用できるのだろうか、妹は純粋すぎる・・・もし騙されているとしたら・・・)
アレクサンダーは密かに決意を固めた
妹を守るために、セレスティア王国について詳しく調べる必要がある
愛する妹の幸せを何よりも大切に思う兄として、慎重に行動することを誓った
翌日、ルシアンはアルテリア王国を発つ日が来た
別れの時、エリアナは涙を堪えていた
「また必ずお会いしましょう」
「はい、お待ちしています」
二人の間には、もはや政略を超えた真実の愛が存在していた
ルシアンが去った後、正式な縁談が進められることになった
しかし、アレクサンダーは密かに行動を開始していた
彼は信頼できる部下たちを集め、極秘の諜報機関を設立した
その目的は、セレスティア王国の真の意図を探ることだった
「諸君、我が国の安全と妹の幸せのために、セレスティア王国について徹底的に調査してほしい」
「承知いたしました、殿下」
アレクサンダーの部下たちは、様々な手段を使ってセレスティア王国の内情を探り始めた
一方、エリアナは結婚への準備を進めながら、ルシアンからの手紙を楽しみに待っていた
愛と疑念が交錯する中、2つの王国の運命を左右する出来事が静かに動き始めていた