新婚生活が始まって半年が過ぎた頃、アレクサンダーはついに行動を起こすことを決めた
ルシアンの監視を通じて得た証拠は十分だった
しかし、愛する妹に真実を告げることは、彼にとって最も辛い選択だった
ある夜、エリアナが1人で読書をしているところに、アレクサンダーが現れた
「エリアナ、少し話がある」
兄の深刻な表情に、エリアナは不安を感じた
「どうしたの、お兄様?」
「ルシアン王子はどこだ?」
「書斎で手紙を書いています、お兄様、何かあったのですか?」
アレクサンダーは妹の手を取り、小声で話し始めた
「エリアナ、これから話すことは辛いかもしれないが、よく聞いてくれ」
エリアナの心臓が高鳴った
「ルシアン王子・・・いや、お前の夫について調べた結果、重大なことが分かった」
「重大なこと?」
「セレスティア王国は、この結婚を利用して我が国を支配しようと企んでいる・・・そして、ルシアン王子はその計画の中心人物なんだ」
エリアナは信じられない思いで兄を見つめた
「そんな・・・ ルシアンがそんなことをするはずがありません」
「エリアナ、お前は純粋すぎる!!!政治の世界では、愛情すらも利用されることがあるんだ」
アレクサンダーは妹に、調査で得られた証拠を説明した
ルシアンがセレスティア王国の高官と秘密の連絡を取っていること
アルテリア王国の重要人物を懐柔していること
そして最終的な目標がアルテリア王国の併合であることなどを詳しく話した
「お兄様、それは本当なのですか?」
エリアナの声は震えていた・・・
愛する夫が自分を騙していたという事実を受け入れることは、あまりにも辛かった
「残念ながら、証拠は確実だ、父上は人を信じやすいお方だからこそ、この計略にはまってしまった・・・だが、俺はお前と我が国を守らなければならない」
エリアナは涙を堪えながら、兄の言葉を聞いていた
しかし、心の奥底では、まだ夫を信じたい気持ちが残っていた
「お兄様、私は・・・私はルシアンに直接聞いてみます」
「エリアナ、それは危険だ!!もし相手に警戒されたら・・・」
「でも、私は夫の口から真実を聞きたいのです、もし本当に騙されていたのなら、それを知る権利があります」
アレクサンダーは妹の決意を見て、ため息をついた
「分かった・・・だが、十分に注意してくれ、そして、何があっても俺がお前を守ることを忘れるな」
その夜、エリアナは寝室でルシアンを待った
夫が戻ってくると、彼女は意を決して尋ねた
「ルシアン、あなたに聞きたいことがあります」
ルシアンは妻の深刻な表情に驚いた
「どうしたんだい、エリアナ?」
「セレスティア王国の・・・あなたの国の真の目的について教えてください」
ルシアンの顔が青ざめた、ついにこの時が来たのだ
「エリアナ、それは・・・」
「お願いです・・・私はあなたの妻です、真実を知る権利があります」
ルシアンは長い沈黙の後、深いため息をついた
そして、妻の手を取り、震え声で話し始めた
「エリアナ、許してくれ、君には最初から真実を話すべきだった」
エリアナの心臓が激しく鼓動した
「僕は確かに、セレスティア王国の計画の一部として、ここに送られてきた、目的は・・・ アルテリア王国を我が国の支配下に置くことだった」
エリアナは衝撃を受けたが、最後まで聞くことにした
「でも、エリアナ・・・君と出会い、君を愛するようになって、僕の心は変わったんだ!!!この美しく平和な国を、愛する君を、決して裏切りたくない!!!」
ルシアンは涙を流しながら続けた
「僕の父、セレスティア王国の国王は確かに横暴で野心的な男だ、そして僕の兄たち、特に王太子も同じように権力に飢えている・・・僕は長い間、そんな家族から離れたいと思っていた」
「ルシアン・・・」
「君と結婚したのは、最初は任務だった・・・でも今は違う!!君を愛しているからこそ、この美しい国を僕の家族に渡すわけにはいかない!!!僕は君を、そしてこの国を守りたいんだ」
エリアナは夫の涙を見て、彼の言葉が真実だと感じた
確かに裏切られた気持ちもあったが、ルシアンが今、心の底から自分を愛し、この国を守ろうとしていることが分かった
「ルシアン、私は・・・私はあなたを信じます。でも、お兄様は・・・」
「アレクサンダー王子が僕を疑っているのは当然だ、僕が王子の立場だったら、同じことをしただろう・・・でも、僕は本心から君たちの味方なんだ」
エリアナは夫を抱きしめた
「私たちで、この困難を乗り越えましょう、お兄様にも、あなたの本当の気持ちを伝えます」
翌日、エリアナはアレクサンダーにルシアンとの会話の内容を報告した
「お兄様、ルシアンは確かに最初は任務でここに来ました・・・でも、今は本当にこの国を愛し、私たちを守ろうとしています」
アレクサンダーは妹の言葉を聞いたが、まだ完全には信用できなかった
「エリアナ、お前の気持ちは分かる・・・だが、敵の策略は巧妙だ、愛情すらも偽装することができる」
「でも、お兄様、ルシアンの涙は本物でした、あの苦悩は演技ではありません」
アレクサンダーは妹の確信に少し心を動かされたが、それでも慎重さを失わなかった
「分かった・・・ルシアンへの直接的な監視は控えよう、だが、セレスティア王国と我が国の重要人物たちへの監視は続ける・・・そして、いざという時のための準備も怠らない」
「ありがとうございます、お兄様」
その後、アレクサンダーはルシアンとの個人的な話し合いの場を設けた
「ルシアン王子、君の真意を聞かせてもらいたい」
「アレクサンダー殿下、私は心からエリアナを愛し、この国を第2の故郷と思っています、セレスティア王国の野望には、もはや加担するつもりはありません」
「では、君の国が実際に侵攻してきた時、君はどちらの側に立つのか?」
ルシアンは迷いなく答えた
「アルテリア王国の側に立ちます、妻と義父母、そして義兄である殿下のために戦います」
アレクサンダーはルシアンの目を見つめた・・・
そこには偽りのない決意があった
「分かった・・・君への監視は停止する、だが、条件がある」
「何でしょうか?」
「セレスティア王国の動向について、君が知り得る情報は全て教えてもらいたい・・・そして、我が国の重要人物で、既に君の国に取り込まれた者がいれば、その名前も知らせてほしい」
ルシアンは頷いた
「承知いたしました、私も、この国の平和を守るために協力いたします」
こうして、ルシアンはアレクサンダーの協力者となった
彼は自分の知識を活かして、セレスティア王国に内通している貴族や重臣の名前を教え、また、本国からの秘密の指令についても情報を提供した
アレクサンダーは、この情報を基にして、より効果的な防御策を講じることができた
そして、必要に応じて、危険な人物を監視下に置いたり、重要な情報から遠ざけたりすることも可能になった
しかし、セレスティア王国も黙ってはいなかった・・・
ルシアンからの報告が途絶えたことで、計画に支障が生じていることを察知し、次の手を打とうとしていた