夜の闇に紛れて、アレクサンダーとルシアンが率いる300名の精鋭部隊は、セレスティア王国の国境を越えた
ルシアンの案内により、警備の手薄な山間部を通って侵入に成功したのだ
「ここから先は、僕の故郷だ」
ルシアンは複雑な心境で故国の土を踏んだ・・・
生まれ育った場所を戦場として見ることは、彼にとって辛い経験だった
「ルシアン、大丈夫か?」
アレクサンダーは義弟の心境を察していた
「はい!!!もう迷いはありません、エリアナと皆を守るために、全力で戦います」
ルシアンの決意を感じ取ったアレクサンダーは、彼の肩を叩いた
「頼りにしている」
一行は慎重に進軍を続けた
ルシアンの知識のおかげで、敵の哨戒部隊を避けながら重要な補給基地に接近することができた
「あの村が最初の目標です・・・ここはセレスティア王国軍の補給拠点になっています」
ルシアンが指差した先には、大きな倉庫群が見えた
多数の兵士が警備に当たっているが、奇襲であれば制圧可能な規模だった
「よし、夜明け前に攻撃を開始する」
しかし、攻撃を前にして予想外の出来事が起こった
警備に当たっていたセレスティア王国の兵士たちが、ルシアンの存在に気づいたのだ
「あれは・・・ルシアン王子殿下ではないか?」
「本当だ!ルシアン王子殿下がいる!」
兵士たちは武器を下ろし、困惑していた
自分たちが敬愛する王子が、敵軍と共にいることが理解できなかった
ルシアンは前に出て、兵士たちに呼びかけた。
「皆、私はルシアンだ!!!お前たちに話がある」
「王子殿下、なぜ敵軍と一緒におられるのですか?」
1人の兵士が勇気を出して尋ねた。
「私は、セレスティア王国の横暴な侵略戦争に反対している!!アルテリア王国は平和を愛する美しい国だ!!!我々が侵略すべき敵ではない」
ルシアンの言葉に、兵士たちは動揺した
多くの兵士が、この戦争の正当性に疑問を抱いていたからだ
「王子殿下、我々はどうすれば良いのでしょうか?」
「降伏してくれ!!!そして、可能であれば我々と共に戦ってほしい!!!この無意味な戦争を止めるために」
しばらくの沈黙の後、兵士たちの代表が答えた
「分かりました、王子殿下・・・我々は降伏いたします」
こうして、最初の戦闘は血を流すことなく終わった
それどころか、約200名のセレスティア王国兵が、アレクサンダーの軍に加わることになった
「驚いたな。君の影響力は想像以上だ」
アレクサンダーは感心していた
「これは始まりに過ぎません。もっと多くの兵士が、この戦争に疑問を抱いているはずです」
ルシアンの予想は正しかった
彼らが補給基地を占拠し、さらに奥地へ進むにつれて、次々とセレスティア王国の兵士たちが降伏し、寝返った
セレスティア王国では、ルシアン王子が敵軍と共に現れたという報告に、王室は大混乱に陥っていた
「あの愚か者め!まさか本気で我々を裏切るとは」
セレスティア王国の国王、グスタフ三世は激怒していた
「父上、ルシアンを処刑しましょう・・・そうすれば兵士たちの動揺も収まります」
王太子エドワードも、弟に対する憎悪を露わにしていた
「だが、奴は既に敵軍の中にいる、手の届かない場所だ」
「それでは、奴を討ち取った者に褒賞を与えると布告しましょう」
王室の会議では、ルシアンの抹殺計画が話し合われていた
一方、彼らの苛政により苦しんでいた民衆は、ルシアン王子の行動に密かな期待を寄せていた
「ルシアン王子が戻ってこられた・・・もしかすると、この苦しい生活も終わるかもしれない」
「そうだな。アルテリア王国は豊かで平和だと聞いている・・・あの国に統治してもらった方が良いかもしれない」
民衆の心は、既にセレスティア王室から離れつつあった
そんな中、アレクサンダーとルシアンの軍は着実に前進を続けていた・・・
途中で合流したセレスティア王国の兵士は既に1000名を超え、当初の3倍の規模になっていた
「このままでは、我々の方が敵軍より大きくなってしまいそうだな」
アレクサンダーは苦笑いしながら言った
「それだけ、この戦争が不人気だということです・・・兵士たちも、無意味な侵略より、正義のための戦いを望んでいるのです」
ルシアンの言葉通り、彼らの軍は雪だるま式に拡大していった
そして、ついにセレスティア王国の首都が見える位置まで到達した
「いよいよ最終決戦だ」
アレクサンダーは決意を新たにした
しかし、首都を守る王直轄軍は精鋭揃いで、これまでのように簡単には行かないことが予想された
「王太子エドワードが直接指揮を取っているようです・・・彼は残忍ですが、軍事的才能はあります」
ルシアンの情報により、最後の戦いの困難さが明らかになった
そして、運命の最終決戦が始まろうとしていた
この戦いの結果が、エリアナとルシアンの愛の運命、そして両国の未来を決定することになるのだった