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第9話 最終決戦

セレスティア王国の首都を前にして、アレクサンダーとルシアンが率いる連合軍は最後の作戦会議を開いていた


敵の王直轄軍は約5000名、対する連合軍は4000名・・・


数的にはほぼ互角だったが、敵は要塞化された首都という地の利があった


「エドワード王太子は、必ず僕を狙ってくるでしょう」


ルシアンは兄の性格を熟知していた


「奴にとって、僕は単なる政治的敵ではなく、王位継承権を脅かす存在でもあります・・・個人的な恨みも深い」


「なるほど・・・それを逆に利用できないだろうか?」


アレクサンダーは戦略を練っていた


「エドワードが君に執着するなら、それが奴の判断を鈍らせる可能性がある」


「確かにそうです・・・ただし、非常に危険な賭けになります」


ルシアンも理解していたが、他に良い手段がなかった


一方、首都のアルテリア王国では、エリアナが戦況を心配しながら待っていた


前線からの報告は途絶えがちで、夫と兄の安否が分からない日々が続いていた


「エリアナ、そんなに心配しては体に毒よ」


母である王妃イザベラが、娘を慰めようとしていた


「でも、母上・・・もう一週間も連絡がないのです」


エリアナの顔には疲労が色濃く現れていた


戦争が始まってから、彼女は負傷兵の看護や民間人の支援に没頭していたが、最愛の人たちへの心配が尽きることはなかった


「アレクサンダーもルシアンも、必ず帰ってくる!!!2人とも強い男よ」


王妃の言葉に、エリアナは小さく頷いた


しかし、心の奥底では最悪の事態も覚悟していた


その時、急使が到着した


「王女殿下、緊急の報告があります!」


「何事ですか?」


「アレクサンダー殿下とルシアン王子の軍が、セレスティア王国の首都に到達いたしました!間もなく最終決戦が始まります!」


エリアナは立ち上がった。


「二人とも無事なのですか?」


「はい。そして、多くのセレスティア王国兵が我が軍に寝返り、連合軍は大幅に戦力を増しております」


この報告に、エリアナは安堵と同時に新たな不安を感じた


最終決戦ということは、最も危険な戦いが待っているということだった


同じ頃、セレスティア王国の首都では、いよいよ決戦の火蓋が切られようとしていた


「全軍、攻撃開始!」


アレクサンダーの号令と共に、連合軍は首都への総攻撃を開始した


一方、城壁の上からエドワード王太子が指揮を執っていた


「裏切り者どもめ・・・特に、あの忌々しい弟を必ず討ち取れ!!!!」


エドワードの憎悪に満ちた声が響く中、激しい攻防戦が始まった


連合軍は圧倒的な士気で攻め立てたが、要塞化された首都の守りは堅く、多くの犠牲を払いながらの進軍となった


「殿下、正面からの攻撃では被害が大きすぎます」


副官の報告を聞いて、アレクサンダーは戦術の変更を考えた


「ルシアン、君の知識で、何か別の侵入経路はないか?」


「実は、王宮には秘密の通路があります。子供の頃、よく使って遊んでいました」


ルシアンの提案により、少数精鋭で王宮内部に侵入する作戦が決定された


夜陰に乗じて、アレクサンダー、ルシアン、そして選抜された五十名の兵士が秘密通路から王宮に侵入した


「懐かしい場所だ・・・」


ルシアンは子供時代を思い出していた


しかし、今や彼はこの場所を戦場として歩いている


「あと少しで王の居室だ」


しかし、彼らの侵入は既に察知されていた


王太子エドワードが精鋭部隊を率いて待ち伏せしていたのだ


「よく来たな、裏切り者の弟よ・・・」


エドワードの声が暗闇に響いた


「兄上・・・」


ルシアンは複雑な心境だった。確かにエドワードは残忍で野心的だったが、それでも血を分けた兄だった


「まさか、お前が本気で我々を裏切るとは思わなかった・・・だが、もうお前を生かしておくわけにはいかない」


エドワードが剣を抜くと、周囲の兵士たちも戦闘態勢を取った


「兄上、なぜ無意味な戦争を続けるのですか・・・アルテリア王国の民も、我が国の民も、平和を望んでいるのに」


「平和?笑わせるな!!!強者が弱者を支配するのが世の常だ!!!!お前はアルテリア王国の女に惑わされて、軟弱になった」


「僕が愛する女性を侮辱するのは許さない」


ルシアンも剣を抜いた・・・


兄弟による宿命の対決が始まろうとしていた


しかし、その時、アレクサンダーが間に入った


「待て。ルシアン、君は下がっていろ」


「でも、殿下・・・」


「これは俺の戦いでもある、エリアナの夫を守るのは、義兄の務めだ」


アレクサンダーは剣を構え、エドワードと対峙した


「アルテリア王国の王子よ、お前がルシアンを騙したのか」


「騙すも何も、ルシアンは自分の意志で我々を選んだのだ・・・君たちの暴政よりも、平和と正義を選んだのだ」


「正義だと?我々が正義だ!」


エドワードは激怒して襲いかかった


2人の王子による激しい剣戟が始まった


アレクサンダーは優れた剣士だったが、エドワードも王太子として厳しい訓練を積んでいた


互いに一歩も譲らない死闘が続いた


その間、周囲では両軍の兵士たちが激しく戦っていた


ルシアンも父王グスタフの部隊と戦いながら、兄たちの戦いを見守っていた


「アレクサンダー!」


突然、エドワードの剣がアレクサンダーの脇腹を貫いた


しかし、同時にアレクサンダーの剣もエドワードの胸を突いていた


「殿下!!!!」


ルシアンは急いで駆け寄った


「ルシアン・・・ エリアナを・・・ 頼む・・・」


アレクサンダーは血を吐きながら、最後の言葉を口にした


「義兄上様・・・」


ルシアンは義兄の手を握りしめた


そして、死に瀕しているエドワードの方を見た


「兄上・・・なぜこんなことになってしまったのですか」


「ルシアン・・・お前は・・・間違っていた・・・ いや・・・ 俺の方が・・・ 間違って・・・」


エドワードも息を引き取った


2人の王子の犠牲により、ついに王宮は陥落した


残る敵はグスタフ国王のみとなった


老王は最後の抵抗を試みたが、既に戦意を失っていた


息子たちを失い、王国も失った彼に、もはや戦う理由はなかった


「父上、もう十分です・・・降伏してください」


ルシアンは最後の情けをかけようとした


しかし、グスタフ王は息子の慈悲を拒んだ


「息子の慈悲など受けん・・・王として死ぬ!!!」


そして、自ら剣を抜いてルシアンに向かってきた


最後の父子対決が避けられない状況となった


しかし、戦いは一瞬で終わった。老いたグスタフ王は、若く熟練したルシアンの敵ではなかった


「許してください、父上」


ルシアンは涙を流しながら、父王にとどめを刺した


こうして、セレスティア王国は陥落し、長い戦争は終結した


しかし、勝利の代償はあまりにも大きかった


愛する義兄アレクサンダーを失ったルシアンは、深い悲しみに沈んでいた


戦争は終わったが、新たな試練が待っていた


2つの王国をどのように統治し、どのように平和を築いていくかという、困難な課題が残されていたのだった


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