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第10話 新たな出発

戦争の終結の報告は、すぐにアルテリア王国に届けられた


エリアナは夫の生還を喜ぶ一方で、愛する兄の死を知って深い悲しみに沈んだ


「お兄様が・・・お兄様が・・・」


エリアナは号泣していた


彼女にとってアレクサンダーは、最も頼りになる兄であり、国の未来を託せる人物だった


その兄が、自分たちの愛を守るために命を失ったのだ


「エリアナ・・・」


戦場から戻ったルシアンは、妻を抱きしめることしかできなかった


彼もまた、義兄の死に深い責任を感じていた


「ルシアン、お帰りなさい・・・そして、ありがとう」


エリアナは涙を流しながら夫に感謝した


「僕は・・・僕は、アレクサンダーを守れなかった」


「いいえ、あなたのせいではありません。お兄様は、私たちの愛と国の平和のために戦ってくださったのです」


王妃イザベラも、息子の死に打ちひしがれていたが、娘と義理の息子を支えようと努めていた


「アレクサンダーは立派に戦って、立派に死んだ・・・彼の犠牲を無駄にしてはならない」


マクシミリアン国王も深い悲しみの中にいたが、王としての責務を忘れてはいなかった


葬儀は両国の民衆が参列する盛大なものとなった


アレクサンダーは英雄として讃えられ、その死を悼む人々の涙が絶えることはなかった


葬儀の後、新しい体制作りが始まった


セレスティア王国は事実上アルテリア王国の統治下に入ったが、統合には多くの課題があった


「ルシアン、君にセレスティア王国の統治を任せたい」


マクシミリアン国王の提案に、ルシアンは戸惑った


「しかし、陛下・・・私は裏切り者の汚名を着た身です」


「そうではない・・・君は正義のために戦い、平和をもたらした英雄だ、そして、両国の事情を最もよく理解している人物でもある」


「私も、ルシアンと一緒に行きます」


エリアナが決意を表明した。


「エリアナ、君は王女として、この国に留まるべきではないか」


「いいえ、父上。私は妻として、夫を支えます・・・そして、両国の融和のために働きたいのです」


国王は娘の決意を見て、頷いた


「分かった。2人で力を合わせて、新しい国を築いてくれ」


こうして、エリアナとルシアンは、旧セレスティア王国の復興と統治のため、新天地へと向かった


旧セレスティア王国では、戦争の傷跡が各地に残っていた


しかし、民衆はルシアンとエリアナの到着を歓迎した


彼らは暴君グスタフ王と残忍なエドワード王太子の支配から解放され、新たな希望を見出していたのだ


「ルシアン王子、エリアナ王女、ようこそお帰りくださいました」


民衆の歓迎に、ルシアンは深く感動した


自分を裏切り者と呼んでいた人々が、今は救世主として迎えてくれているのだ


「皆さん、私たちは共に新しい国を築いていきましょう・・・戦争の時代は終わりました、これからは平和と繁栄の時代です」


エリアナの言葉に、民衆は大きな拍手で応えた


しかし、復興の道のりは決して平坦ではなかった・・・


戦争による経済的損失は大きく、社会制度の再構築も必要だった


さらに、旧体制に依存していた貴族たちの中には、新体制に反発する者も少なくなかった


「王子、一部の貴族たちが国外逃亡を図っています」


側近の報告に、ルシアンは冷静に対応した


「逃げたい者は逃がしてやれ・・・残った者たちと共に、新しい国を築いていこう」


実際、多くの旧体制派貴族が近隣諸国に亡命していった


しかし、民衆の支持を得た新体制は、着実に基盤を固めていった


エリアナは、かつて自分がアルテリア王国で行っていた慈善活動を、この新しい土地でも始めた


孤児院の設立、病院の建設、教育制度の整備など、民衆の生活向上のための事業を次々と手がけた


「エリアナ、君は本当に素晴らしい」


ルシアンは妻の献身的な働きぶりに感動していた


「私たちがここにいるのは、お兄様の犠牲のおかげです・・・その意味を忘れずに、全力で取り組まなければなりません」


2人の努力により、旧セレスティア王国は見違えるほど変わっていった


治安は回復し、経済も徐々に活性化していった


そして何より、民衆の表情が明るくなった


1年後、エリアナは妊娠していることが分かった。新しい命の誕生は、両国にとって大きな希望の象徴となった。


「お兄様、私たちに子供ができました・・・きっと、あなたに似た優しくて強い子に育てます」


エリアナは兄の墓前で報告した


そして、マクシミリアン国王が高齢により亡くなった時、両国は正式に統合され、新しい王国が誕生した


ルシアンとエリアナが共同統治者となり、アルテリア王国の名前を保ちながら、旧セレスティア王国の領土も含む大きな王国となった


「アレクサンダーが生きていれば、きっと素晴らしい王になっただろう」


ルシアンは戴冠式の夜、義兄を思い出していた


「お兄様は、私たちの心の中で永遠に生き続けます・・・そして、私たちが築く平和な国が、お兄様への最高の供養となるでしょう」


エリアナの言葉に、ルシアンは深く頷いた


新王国は、周辺諸国のどこよりも豊かで平和な国となった


ルシアンとエリアナの賢明な統治により、民衆は幸せな生活を送ることができた


そして、2人の間には複数の子供が生まれ、王室は愛に満ちた家庭となった



政略結婚として始まった2人の関係は、真実の愛に基づく結婚となり、そして多くの犠牲を乗り越えて、理想的な王国の建設へとつながったのだった


アレクサンダーの献身的な愛と犠牲は、決して無駄にはならなかった


彼が命をかけて守ろうとした妹の幸せと国の平和は、確実に実現されていた


そして、新王国に住む全ての人々が、かつてない幸福を享受する時代が始まったのだった


愛と献身、そして正義への信念が生み出した奇跡の王国として、その名は後世まで語り継がれることになるのだった


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