それから10年が過ぎた・・・
エリアナとルシアンが統治する新王国は、地域で最も繁栄した国となっていた
2人の間には4人の子供が生まれ、王宮は笑い声に満ちていた。
「お母様、アレクサンダー伯父上様のお話をもう一度聞かせて」
長男のマクシミリアン王子が、母親にせがんでいた
彼は亡き伯父の名前を受け継いでおり、その勇敢な物語を聞くのが何よりも好きだった
「また?この間も話したでしょう」
エリアナは微笑みながら、息子の頭を撫でた
しかし、子供たちにとって、アレクサンダー伯父の英雄的な行為は、何度聞いても飽きることのない物語だった
「アレクサンダー伯父様は、お母様とお父様の愛を守るために戦って、そして国の平和のために命を捧げたのよ」
「僕も、伯父様のように勇敢になりたい」
「それなら、まずは勉強と剣術の練習を頑張ることね」
子供たちは皆、伯父アレクサンダーを英雄として慕っていた
そして、両親の愛の物語を誇りに思っていた
ルシアンは執務室で、国政の報告を受けていた
「陛下、今年の収穫は過去最高の豊作です。そして、隣国との貿易も順調に拡大しています」
「それは良いことだ。民衆の生活は安定しているか?」
「はい。貧困率は年々減少しており、教育機関も充実してきました」
ルシアンは満足そうに頷いた・・・
アレクサンダーとの約束通り、この国を守り、発展させることができていた
夕方、一家は王宮の庭で夕食を取っていた
かつてエリアナが一人で散歩していた薔薇の小径は、今では家族の憩いの場となっていた
「エリアナ、君は幸せか?」
ルシアンが妻に尋ねた
「もちろんよ。あなたと子供たちがいて、国民も幸せに暮らしている・・・これ以上の幸せがあるでしょうか」
「そうだな・・・僕たちは確かに幸せだ」
2人は手を取り合い、夕日を見つめていた。
その時、長女のイザベラ王女が質問した
「お母様、お父様はなぜ自分の国を裏切ったの?」
エリアナとルシアンは顔を見合わせた
子供たちには、まだ完全に理解できない複雑な事情があった
「お父様は裏切ったのではないの、イザベラ・・・正しいことを選んだのよ」
「正しいこと?」
「愛と平和を選んだのです」
ルシアンが説明した
「僕の元の国は、戦争と征服を好む国だった・・・でも、お母様の国は平和を愛する美しい国だった・・・僕は、より良い世界を選んだのだ」
「それに、お父様は私たちの家族を選んでくれたのよ」
エリアナが付け加えた
子供たちは少し難しそうな顔をしていたが、両親の愛の深さは理解していた
夜、子供たちが眠った後、エリアナとルシアンは月明かりの下で語り合っていた
「ルシアン、時々思うの・・・もしお兄様が生きていたら、どんな国になっていたでしょうね」
「きっと、今以上に素晴らしい国になっていたでしょう・・・アレクサンダーは僕より優秀でしたから」
「でも、私は今の状況に満足しています・・・お兄様の犠牲を無駄にしないよう、精一杯努力してきました」
「僕もそうです・・・毎日、アレクサンダーに恥じない生き方をしようと心がけています」
2人の会話は、いつも亡き兄への感謝と敬意に満ちていた
翌日、王国では年に1度のアレクサンダー記念日が開催された
この日は、国を挙げて英雄を讃える日となっていた
「国民の皆様」
エリアナが民衆の前で演説した
「今日、私たちが平和に暮らせるのは、多くの人々の犠牲があってこそです・・・特に、私の兄アレクサンダーは、私たちの愛と国の未来のために命を捧げました」
民衆は静かに演説を聞いていた
「彼の遺志を継ぎ、私たちはこの国をさらに発展させ、全ての人が幸せに暮らせる社会を築いていきましょう」
大きな拍手が響いた
その夜、エリアナは1人でアレクサンダーの墓を訪れた
「お兄様、見ていてくださいね・・・私たちは幸せです・・・そして、あなたが守ろうとした国は、今では地域で最も平和で豊かな国になりました」
墓前に花を供えながら、エリアナは報告を続けた
「ルシアンは素晴らしい王になりました・・・子供たちも健やかに育っています・・・きっと、あなたに似た立派な大人になるでしょう」
風が吹いて、花びらが舞い散った
エリアナには、それが兄からの返事のように感じられた
「ありがとう、お兄様・・・永遠に愛しています」
こうして、愛と献身の物語は幸せな結末を迎えた
政略結婚として始まった2人の関係は、真実の愛に基づく結婚となり、多くの困難を乗り越えて、理想的な王国の建設へとつながった
アレクサンダーの犠牲は決して無駄にはならず、彼が命をかけて守ろうとした妹の幸せと国の平和は確実に実現された
そして、新王国に住む全ての人々が幸福を享受する時代が続いていくのだった
愛は全てを越える・・・そして、真の愛に基づく統治は、最も美しい平和をもたらすのである
<終わり>