言葉の起源に触れたその夜から翔太の世界は変わり始めた。最初は、小さな違和感だった。道に立っていた標識の文字がかすれて見えなくなっていた。駅の構内アナウンスが途切れ途切れに聞こえた。友人が「おはよう」といった。声は届いたけれど意味は届かなかった。彼の脳はそれが挨拶であると知っていた。けれどそれを「おはよう」として感じる力を翔太はどこかに置き忘れてしまっていた。
翔太は凍りついた。
言葉が崩れ落ちていく。
意味が腐り始めていく。
テレビに映るニュースの音声は、まるで遠い雨音のようだった。電車の車内放送は誰も聞き取れない低いうなりに変わっていた。そして翔太は思う。読むことができなくなればその意味や存在でさえも不安定になるということ。その証拠に街のいくつかの店が消えていた。いや、そこにあったのが思い出せなくなっていた。記憶の中から名前と輪郭を失った建物たちは、現実からも滑り落ちた。
《沈黙は、世界の輪郭を奪う》
図書館で聞いた言葉が再び心に響いた。そしてそれが進行しているのは翔太だけではない。
学校の黒板に文字が書けなくなった。
教師の声が誰にも届かない。
子供たちは自分の名前でさえも忘れかけていた。
世界は、静かに、確実に、沈黙の未定義へと還っていく。
翔太は焦った。何か行動しなければ。でも、何をしようとしているのか考えが言葉にならない。そのとき、ポケットに入っていた本のようなものが震えた。言語の起源の書架から受け取った彼自身の独自の物語の原稿。白紙だったその書架にたった一語だけだが、文字が浮かんでいた。
記述せよ
誰かが自分の物語に書き込むのではなく、自分で作るのだ。この世界を言葉で支える者となれ。翔太はポケットの中の無文字のページにそっと指先を当てた。言葉にならなかった想いが意味に変わる。そして意味がその世界の原型を保つ。そして彼はその無文字の書架に書き始めた。その第一行は「これはまだ、名のない都市の物語。」
その瞬間、空が変わった。消えかけていた街の輪郭が一筋の光を取り戻す。
記述が始まったのだ。
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あとがき
どうもSEVENRIGHTです。
どうやら題名がうまく記入されていなかったようなので全てに記入しておきました。
そろそろ次回ぐらいに暗号を入れようかなと考えています。ぜひ次回もみて暗号を解いてください。
コメントといいねをよろしくお願いします🙏