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第10話 最初の文字

翔太は書架の前に立っていた。

震える手の中にはかつて拾った、たった一枚の紙切れがある。それは、全ての始まりだった。けれど、当時の彼にはその意味が理解できなかった。



 ☋+☌=Λ

 Λ→ΔΔΔ/ただしΔは同一ではない


この不気味な記号例。

今になってそれが暗号の構文第一式と酷似していることに気づいた。ただの落書きではない。これは言語の起源から漏れ出した断片だった。


 「じゃあ……この暗号、僕だけが見つけられた理由は……?」


考える間もなく、図書館の壁に刻まれた文脈の樹が震えた。書架に挟まっていた一冊の書物が異様な光を放ち始める。ページが勝手にめくられ、そこには見覚えのある紙mの模様がーー

あの時と全く同じ配置で記されていた。


「これは……記録されていた……?」


違う。翔太は直感する。これは記述されたのではない。最初から記述されるために存在していたものなのだと。

あの紙は偶然ではなかった。むしろ、この瞬間に至るまでの大事なトリガーだったのだ。ふと、遠い記憶が蘇る。

もっと小さかった時、ふざけて描いた自作の文字。意味のない記号。けれど、それを見て母が言った。


「面白いね。言葉じゃないのに何かを伝えようとしてる。」ーーあれは創造だった。

翔太が初めて言葉になる前の意思に触れた瞬間だった。


「……まさか、あのとき僕が書いた記号が、“起源構文”とつながってた……?」


そしてようやく思い出す。

あの紙を拾った時、妙に既視感を覚えた理由。

それは彼自身の過去の記号だった。

彼は過去に既に語るものだった。

この図書館に偶然導かれたのではない。

彼自身が図書館の一部だったんだ。

書架が光る。

紙の暗号が浮かび上がる。

そして、それに新たな一文が重なる。


 ---


 Δとは可能性。Δは三重に揺らぎ、ひとつとして同じ未来を持たない。

 Λ(語)を持つ者は、その未来を編む権利を持つ。


 ---


その時、図書館の天井が開いた。

音もなく宙に巨大な環が浮かぶ。

最初の記述空間ーー語られなかった世界の残響。

そして彼の前にまた一つ。新たなページが開かれた。


「語れ、記述者よ。世界は君が名づけるのを待っている」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

どうもSEVENRIGHTです。

前話でも言っていましたが昨日更新できていなかったため、今日の2回目の更新です。

6月23日から諸事情により一旦連載を中断します。再会は次週の6月30日を予定しております。その間は新しい小説が毎日12時に更新される予定ですので、それを見といてください。


コメントといいねをよろしくお願いします🙏




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