記述の構文はもう開かれていた。
彼は語るものとして書架に受け入れられた。
だが、それは終わりではなく始まりだった。
図書館の中心にある空白の台帳。
そこに新たな文字が宙からゆっくりと舞い降りてくる。
《試練記述 第一式》:汝、自他の境界を越えて語れ。
ただし、語ることで奪うなかれ。失わば、それは罪となる。
「他人の物語を書き換えるってことか。」
声が出ない。体が動かない。想像しただけで寒気が走る。
その意味の重さ、重責に翔太の胸は冷たくなる。
すると目の前に現れたのは、かつて街であった少年。
不登校だったが、なぜか翔太だけに笑いかけた少年。
彼の記憶、存在、背景、それら全てが書架に広がっていた。この少年の物語を今、選べる。
「選べる……? いや、それは……決めていいことなのか?」
ページには3つの候補が浮かび上がっていた。
① 彼は自らの殻を破り、友と共に世界を歩き始める。
② 彼は孤独のまま沈黙を愛し、図書館の守人となる。
③ 彼は世界の一部として記述されず、静かに消える。
選ぶということは翔太にとっては他の可能性を書き捨てること。未来とは常に選ばれなかった物語の墓場である。
「書かない、という選択肢はないのか?」
書架はその言葉に対して静かに震えた。
そして宙に一文が浮かぶ。
《沈黙は、存在の否定である》
記述者が書かぬとき、物語は断絶し、世界は崩れる。
「選んで書くことはその可能性を生かし広げること。だが、その逆にそれ以外の可能性を全て切り捨ててしまうということ。」
翔太は恐る恐るペンを取った。
彼は――
(※ここで選択は保留/次章への引き)
書いた瞬間、書架の周囲が光に包まれる。
空気が揺れ、物語の波紋が現実に影響を及ぼす。
遠くの都市で少年が一歩、校門を踏み出す描写。
あるいは、図書館のはるか遠くで彼がページを守る姿。
あるいは、何もなかった風景にただ風だけが吹く。
選ばれた物語が世界に定着していく。
その時、書架の影からもう一つの影が現れる。
「君も選べなかった過去があるのか?」
翔太に問いかけるその影。
彼もまた、かつての記述者。
そして、、物語を書きすぎた罪人。
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あとがき
どうもSEVENRIGHTです。
この時、翔太は何を選んだのか予想してみてください。
コメントといいねをよろしくお願いします🙏