書架の空間がざわめく。
ページの隙間から黒い風が吹いた。
言葉が敵意を持ち始める。
「やはり、お前は語り続ける道を選ぶのか?」
エノクの声は静かだった。
だがその背後には、かつて彼が記述した数百の物語が連なっていた。
崩れた王国、滅びの神殿、空想の都市。
書かれ、終わり、閉じ込められた物語たちーー終章の軍勢
翔太は手元のペンを強く握る。
「僕は……語る。失うものがあっても、
語ることでしか前に進めないなら、それが僕の道だ!」
その瞬間、空中に構成枠(コンストラクター)が開く。
《記述構文展開――第一式:物語始源《プロローグ》》
彼の足元からあの街角の記憶が浮かび上がる。
暗号を見つけた瞬間、廃墟の扉が開いた日。
始まりの物語が世界の皮を裂き、現実の上に立ちはだかる
「面白い。ならば見せよう。
語りすぎた末にたどり着いた沈黙の極地を」
エノクが指を鳴らすと空が砕けた。
音が消える。光が消える。時間が滲む。
《第四構文:終章の黙示録(ラストエピタフ)》
古の王がそこに現れ、彼の語るセリフが空間を凍らせる。
「我が世は終わりぬ。ならば語られる価値も消えよう。」
その言葉と同時に翔太の構文が消える。
書かれた街角が揺らぎ、語られた文字が崩壊し始める。
「君の語りは美しい。だが脆い。
沈黙の構文は言葉を必要としていない世界を作る。
だから強い。そして壊れない。」
翔太はその言葉に反論する。
「それは違う。君の世界は壊れているんじゃない。
ーー動いてないんだ。」
彼はペンを振るう。
《第三構文:逆照の頁(レフレクト・ページ)》
過去に自分が記述した構文が逆流して、ページを包む。
「僕の語りは確かに弱いかもしれない。でも僕の語りには未来も含んでいる。
語られていない空白こそが、真の希望なんだ。」
言葉と言葉がぶつかる。
記述された物語同士がさまざまなシーンで衝突する。
滅びの神殿 vs 暗号の廃墟
封印された沈黙の王 vs 言葉を得た少年
それは剣でもなく魔法でもない。
ただただ、語られた意味の強度が世界を変えていく戦いだった。そしてページの果てーー
エノクの物語群に一つの亀裂が走る。
「……これは……?」
翔太がかつて解いた暗号の一つが構文内に干渉し始める。
彼が無意識に残してきた余白、それが今ーー沈黙構文に入り込んだ。
「……言葉が……沈黙に触れた……?」
沈黙はさらに揺らいだ。
語らなかったことで保たれていた秩序が意味を持たされた瞬間に、全てが崩れ始める。
「やはり、君は危険だ。」
エノクは構文を収束させる。
その背後に先ほどひび割れた書架の加賀が映る。
「だが、もう一度だけ問おう。
お前は本当に語ることをやめないのか?」
「やめない。なぜなら僕はまだ書いていない物語があるからだ。」
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あとがき
どうもSEVENRIGHTです。
前話の物語の流れ的に翔太がエノクに賛成する感じでしたが、あえて翔太とエノクを対立させました。
次回もお楽しみに。
コメントといいねをよろしくお願いします。🙏