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第13話 記述は刃、言葉は力

書架の空間がざわめく。

ページの隙間から黒い風が吹いた。

言葉が敵意を持ち始める。


「やはり、お前は語り続ける道を選ぶのか?」


エノクの声は静かだった。

だがその背後には、かつて彼が記述した数百の物語が連なっていた。

崩れた王国、滅びの神殿、空想の都市。

書かれ、終わり、閉じ込められた物語たちーー終章の軍勢

翔太は手元のペンを強く握る。


 「僕は……語る。失うものがあっても、

 語ることでしか前に進めないなら、それが僕の道だ!」


その瞬間、空中に構成枠(コンストラクター)が開く。


 《記述構文展開――第一式:物語始源《プロローグ》》


彼の足元からあの街角の記憶が浮かび上がる。

暗号を見つけた瞬間、廃墟の扉が開いた日。

始まりの物語が世界の皮を裂き、現実の上に立ちはだかる


「面白い。ならば見せよう。

語りすぎた末にたどり着いた沈黙の極地を」


エノクが指を鳴らすと空が砕けた。

音が消える。光が消える。時間が滲む。


 《第四構文:終章の黙示録(ラストエピタフ)》


古の王がそこに現れ、彼の語るセリフが空間を凍らせる。


「我が世は終わりぬ。ならば語られる価値も消えよう。」


その言葉と同時に翔太の構文が消える。

書かれた街角が揺らぎ、語られた文字が崩壊し始める。


「君の語りは美しい。だが脆い。

沈黙の構文は言葉を必要としていない世界を作る。

だから強い。そして壊れない。」


翔太はその言葉に反論する。


「それは違う。君の世界は壊れているんじゃない。

ーー動いてないんだ。」


彼はペンを振るう。


 《第三構文:逆照の頁(レフレクト・ページ)》


過去に自分が記述した構文が逆流して、ページを包む。


「僕の語りは確かに弱いかもしれない。でも僕の語りには未来も含んでいる。

語られていない空白こそが、真の希望なんだ。」

言葉と言葉がぶつかる。

記述された物語同士がさまざまなシーンで衝突する。

滅びの神殿 vs  暗号の廃墟

封印された沈黙の王 vs  言葉を得た少年

それは剣でもなく魔法でもない。

ただただ、語られた意味の強度が世界を変えていく戦いだった。そしてページの果てーー

エノクの物語群に一つの亀裂が走る。


「……これは……?」


翔太がかつて解いた暗号の一つが構文内に干渉し始める。

彼が無意識に残してきた余白、それが今ーー沈黙構文に入り込んだ。


 「……言葉が……沈黙に触れた……?」


沈黙はさらに揺らいだ。

語らなかったことで保たれていた秩序が意味を持たされた瞬間に、全てが崩れ始める。


「やはり、君は危険だ。」


エノクは構文を収束させる。

その背後に先ほどひび割れた書架の加賀が映る。


「だが、もう一度だけ問おう。

お前は本当に語ることをやめないのか?」


「やめない。なぜなら僕はまだ書いていない物語があるからだ。」


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あとがき

どうもSEVENRIGHTです。

前話の物語の流れ的に翔太がエノクに賛成する感じでしたが、あえて翔太とエノクを対立させました。

次回もお楽しみに。


コメントといいねをよろしくお願いします。🙏


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