「ごめんなさい。治癒師の方、すぐには戻れないみたいなの」 そう言って少女は右手をボクの体にかざした。
「ヒール!」
光とともに、魔法陣のようなものが見えた。ぶり返していた痛みが再び引いていった。
「はああ……」
少女は深いため息をついた。
「全力を込めたつもりだけど……これじゃあやっぱりまともな治癒魔法とは言えないな」
悲しそうな顔でボクのことを見詰めている。
「治癒師様、早く戻らないかな……」
少女はボクの体を撫でた。
「猫ちゃん、言葉はわからないかもしれないけど……」
そう言って少女は自分の身の上をしゃべりはじめた。
「私はエルフで、名前はジーニア。魔法学校の中等部を卒業したばかりで、魔法使いとしてはまだまだ半人前どころじゃなくて……」
「ンニャア……」
「あれ? 私の言葉がわかるのかな?」
「ニャ」
「ごめんなさい。治癒魔法も満足にできなくて……でも、みんなあなたのことを無視して通り過ぎてたから……」
「ンニャア」
しゃべろうとしてもやっぱり鳴き声しか出ない。
「私っていつもそうなの。考えなしで、できもしないことをやろうとしちゃって。魔法学校でも私、魔法使いに一番向いてるはずのエルフなのに成績は中の上で、たいしたことできもしないのに……」
「ニャニャ」
「余計なことして、あなたの命を助けられなかったら……あの後、ちゃんと治療してくれる人が来たかもしれないのに、勝手に連れてきちゃって……」
少女は涙声になっていた。
「ンニャニャギャアアア!」
ボクは「それは違う」と伝えたくて出せる限りの鳴き声を上げた。その瞬間、「ボン!」と大きな音がして、煙が上がった。
「そ、そんなことないです!」
自分でも驚いた。しゃべれるじゃないか。でも、視界がずいぶん高くなっている。
「きゃっ!」
少女が悲鳴を上げ、手で目を隠した。ボクは自分の体に視線を向け、その理由を一瞬で理解した。何も着ていない。猫なら着ていないのは当たり前だが、体は猫じゃなかった。
「うわっ!」
ボクは慌ててしゃがみこんだ。これ、たぶん前世の体だ。そう思い、少女に説明しようとしたが、体中の痛みがまたぶり返してきて気を失った。