ハイエルフの魔法は光の魔力。
ダークエルフの魔法は闇の魔力。
—かつての祖先を祀った者達は数万年の時を超え、人間(人族)と魔族に分かれる事となる…。
その日、平和だった人間の国、トラフェリアのある村の上空に異変が起きた。
「
地に響く声がしたと同時に、魔族の国ナザガランとの境に近い場所から村の上空に向けて、空を覆う程の大きさに薄紫の硝子のドームの様な巨大な壁が構成されたのだ。
「…今からそちらに火が及ぶ!速やかに避難をしろ!」
空の何処かから、またもや誰かが叫ぶ声がする。
人々は驚き、ろくに物も持てない状態で村から都市の中心部に向かって走った。
あれは何だと空を見上げて無邪気に問う子を抱えて逃げる者、脚の不自由な親を
「なに?!」
城にいた王女は遠い村の上空の異変に目を止めた。
歳の頃は16、7歳のまだあどけない面持ちだ。可憐な容姿に青いワンピースを身に付けており、その上から合わせて作り上げた重厚な白銀の鎧を纏っている。
彼女が気付いて程なく、国境の山を越えて燃え盛る大きな炎の塊が空から降って来た。
「あっ!」
王女—アリア=エルナディアは驚いて窓際に駆け寄った。
ドォンと音を立て、硝子の防御壁はそれを捕らえた。落とすまいとするかの様に波打って支えている。
人々はますます驚き、我先にと逃げ惑う。
「…ダメだ!もう持たない!」
—暫くしてまた声がした。
途端に防御壁がまるでパズルのピースが外れるかの様に解体されて行き、しまいにはふっと消えてしまった。
巨大な炎の塊は消え行く壁に合わせてずるりと村の中心部に落ちた。
みるみる村は炎に包まれ、辺りには煙と物が焼ける臭いが充満した。
幸い逃げ遅れた者はおらず、擦り傷や僅かに煙を吸い込んだ程度の負傷者が数人出た程度の人的被害に留まった。
しかし炎の消火には一晩掛かり、風光明媚だった村は跡形もなく燃え落ちた。
「—これは…ナザガランに棲む『
翌日、火災現場に到着した長老の一人が、焼け跡に残る炎だった塊を見て言った。
「…
調査に着いて来たアリアが問い返す。
「そうです。我らが使う乗用に調教した大人しい
「その竜が、何故ここに?」
長老は髭を抑えて考え込む。
「…先日、厄災の竜、
「あの事件…」
「殺された子供達は魔族の母と人間の父を持ち、普段はナザガランに住んでいる者との事です。
「何ですって?」
アリアの顔にみるみる怒りの色が浮かび上がった。
彼女は咄嗟に、乗っていた
「アリア様⁈魔王の元へ行かれるのですか?『勇者』アリア様!」
風の様に去って行く彼女の背中に長老が間伸びした声を掛ける。
その横を後ろから来て更に駆け抜けて行く
騎手は黒いシックなゴスロリ調のドレスを着て、背中に大きな斧を担いでいた。
「これ、ミレーヌ!そなたまで行かずともよい!ただの侍女であろう!」
「侍女だからこそお護りする為に行くのです!」
女性は振り返り、引き留めた長老にそう叫ぶと一心に追い掛けて行った。
…二人を見送り、長老は小さく舌打ちをした。
「…まあよい。アリアであれば魔王を討ち取るだろう」
そう呟くと彼は被害で混乱して右往左往する人々の中で忽然と消えてしまった。
勇者アリアは一心に魔族の国ナザガランへと
後を追った侍女ミレーヌの
彼女は肩で激しく息をする愛竜の長い首を優しく撫でた。
「…アリア様…」
草原の中で、もう見えなくなってしまったアリアが向かった方角を見て、ミレーヌは不安そうに呟いた。