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第7話 お使いに行かされる魔王

 鮮やかな虹馬アルカンシエルが2頭、ナザガランの国境を越え、草原を走っていた。

 蹄の近くに小さな翼を生やした虹色のシルエットが滑る。


「ええ?アリアの妖魔力を吸い取りに行ってやってた?そんな事やってお前に何か得でもあったのか?」

 前に後ろになりながら、騎乗のリュークが話し掛ける。

「いや…なんか行ってこい、やって来いって言われたから…それに行ってみたら凄く困ってそうだったし…」

 もう一頭の虹馬アルカンシエルの上で、前を向いて手綱を操りながらヴェイルが答える。


 二人は魔王と参謀という立場でありながら、強いからという理由で闇竜アンライト討伐要員として、トラフェリアに向かわされていた。

「しかし寝込んでまでやる事だったのかなぁ…」

「うん。…でも普段調査とかで全然帰って来ない母が、突然帰って来て『着いて行くから一緒に行こう』って言ったものだから嬉しくて」

「え、お前、マザコ…」

「だから、小さい頃の話だよ」


 ヴェイルは少し気分を害したのか、ハッ!と声を掛け虹馬アルカンシエルのスピードを上げる。

 尻尾がシャランと音を立てて高く振れた。


 暫く走って小高い丘の上まで来ると手綱を控える。

 そこからはトラフェリアの村が一望出来た。

 ほぼ修復を終えたナザガランとは違い、炎竜フレイムドラゴンで焼け落ちた村の痛々しい姿がそこにはあった。


「…結局、アリアって何者なんだ?」

 少し遅れて来たリュークが近くまで虹馬を寄せて来て問い掛ける。


「彼女は…ハイ・ダークエルフと人間と魔族の合同軍が滅ぼした『狂戦士ウーヴル』の生き残りだ」

「ウーヴルって…古代エルフの?」

「そう。元々一つの種族だった古代エルフからハイエルフとダークエルフが分かれたんだけど、分かれずにそのままウッド・エルフとして残った種族が、森と自分達を護る為に戦闘特化民族、ウーヴルになった」

 リュークが黙って聞いている。


「彼らは闇竜アンライトを使役し、生き残らせる為に人間を喰わそうとして、魔法をほぼ失い防御が薄くなってしまっているトラフェリアを襲ったんだ。あの国の王には弱まった光魔法を補う為、代々ハイエルフが務めている。人間や魔族も大量に殺されたんだが、犠牲者の中にその時の王、イシュアートも含まれていたんだ」


「で、逆上した王妃のハウエリアが合同軍結成を呼びかけて、応じた軍でウーヴルを虐殺したのか」

「そんな所だ」


 ヴェイルが村の方向をじっと見つめて語る。

「ウーヴルの本拠地に攻め入った時、気が付けば子供を庇った者まで殺してしまっていた。赤ん坊だったアリアは息絶えた母親の腕の中で、不思議そうに母の顔を触っていたらしい」

「…でも、どうせ面倒な事になるんだったら、…そのまま殺せば良かったんじゃないのか…?」

 リュークが少し口ごもりながらも言う。


「…どうかな…何が正解だったんだろう…でも、俺はその場に居てアリアを救いたくなった父上とハウエリア様の気持ちが分かる気がする…」


 風が爽やかに吹いている。虹馬アルカンシエルが顔を上げてブルルと鳴いた。


「グラディス伯父上も古代エルフの、体内で暴走しかけた闇属性魔法亜種の妖魔力が強すぎて、自分では吸収してやるのは無理だからって『魔族最強闇属性魔力持ち』の息子を派遣する羽目になったのはどうかと思うがな」

 リュークが言う。

 困った様に笑いながらヴェイルが返す。

「ハハハ…そうだな。しかも俺の貸出の見返りにトラフェリアの珍しい食材とかルダ(鉱石)とか貰ってたんだよなぁ…」

「えっ?交渉材料にされてるじゃないか。不憫!不憫だなお前っ」


 リュークが思わず言った時、何処か遠くからオオオオォン…と闇竜アンライトらしき鳴き声がした。


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