「あー、えーと…竜違い?」
麗らかに晴れ渡る空の下で、重厚な鎧で武装し
目の前にいる、背中に石英を背負った『
ヴェイルとリュークが
「鎧装、解くかぁ…」
リュークが言う。
二人は魔法転送で装着した鎧を冑のない軽武装に変えた。
そこに慌ただしく2頭の
「あっ」
「あれ?」
アリアとヴェイルが同時に言う。
「ヴェイル兄様どうしてここに?私達は
どうやら彼女達も竜の声を聞き誤ったらしい。
「
リュークが答えた。
「ヴェイル兄様は魔王陛下なのに、御自ら来てくださったのですか?…ご協力感謝します」
「先日は大変申し訳ありませんでした」
と改めて頭を下げる。
「全くだな。これで怒らないヴェイルは老成しすぎだ」
「まあ…勘違いは誰にでもあるから。もういいんだよ」
「お前は分かっていないが、勘違いで国の王を失いそうになったこっちは笑い事じゃ済まないんだぞ?」
リュークとヴェイルのやり取りに、アリアはますます縮こまった。
「ア、アリア様を虐めないでください」
ミレーヌが堪らず言った。しかしリュークの顔に気付くと途端に厳しい顔になる。
「…あなた…あの時の…」
「ん?ああ…大斧使いのお姫様か…俺はリューク=ノワール。魔王ヴェイルの第一参謀で、こいつとは従兄弟にあたる」
「魔王陛下の従兄弟殿下でいらっしゃるのですね…わたくしはミレーヌです…アリア様の侍女をしております」
リュークは彼女を見て少し申し訳なさそうに言った。
「あの時はあなたのアリア様に剣を向けて悪かったな」
「い、いえ…騎士として的確な判断だったと思います。…お見事でした」
「…」
彼はふと黙った。
アリアが少しもじもじしながらヴェイルに言う。
「あ…あの…素敵な馬ね。ナザガランにはそんなに美しい馬が住んでいるの?」
「そうだよ。
「へえ…いいなあ…」
「乗ってみる?」
ヴェイルはそう言うと、鐙を履いてひらりと
「ほら、アリア!」
アリアを自分の前に乗せ、遠駆けに行ってしまったヴェイルを見ながら、リュークはポツリと呟いた。
「…普通ああするか…?」
「アリア様…幸せそう…」
「えっ?」
横でミレーヌが指を組んでうっとりと眺めている。
しかしリュークの視線に気付き、恥ずかしそうにピシリと手を下ろした。
「そ、そう言えばあなた、さっきわたくしの事を『お姫様』と…」
彼女は何事も無かったかの様に居住まいを正して聞く。
「金髪で碧い瞳のお姫様『ミレーヌ=エルナディア王女』だろ?」
ミレーヌは驚いて自分の肩にかかる髪を見る。いつもと変わらない蒼黒だ。
リュークを振り仰ぐ。
「あなたはわたくしの事が…」
「ハウエリア様の認識阻害魔法はお強いが、オレ達魔王族の血筋には通用しないんだ」
リュークの左眼の下の王家の紋章が少し光を帯びた様に見えた。
彼女は不安げに遠くにいるアリア達を見る。
「この事、アリア様には…」
「ああ。多分知られていないと思う」
「…そうですか…」
リュークが真剣な面持ちになって聞く。
「どうしてあなたは王女の身分を隠しているんだ?…本来あるべき地位に就いているアリアに仕えるのは辛いだろう…」
「アリア様は…本当はあの子の方がわたくしの身代わりなのです」
ミレーヌは俯くと、重い口を開いた。