「リューク様は、先のウーヴルとの大戦をご存知ですか?」
「ああ。詳細はさっきヴェイルに聞いた」
ミレーヌが記憶を辿る様に言う。
「あの時、わたくしはまだ歩き始めたばかりの頃でした。ウーヴルが
「ルガリエルに?何故?」
「母は王妃である以前に大聖女でもあり、人間の中では光魔法の力が強かったのですが、ハイエルフには及びません。そこでルガリエルにある大樹ユガドからハイエルフの力を中継して体内に蓄積する為の種を、光魔法で自らの心臓に植え付けて貰ったのです」
「なんて事を…人間の身にはかなりの苦痛だっただろう」
リュークの眉が憐れみに歪んだ。
ミレーヌが目を伏せて続ける。
「ハイエルフの力を手にした母は、当時の魔王グラディス様との合同軍で結果的にウーヴルの殲滅に成功する事になるのですが、見返りとしてハーフハイエルフであるわたくしが成長したら、ルガリエルの国王に献上する事を約束させられました」
「何故…?」
ミレーヌがリュークの目を見つめた。
「ヴェイル様…今の魔王陛下はハーフダークエルフですよね?ハーフは力が元の上級エルフ達より強くなるのです。ルガリエルはわたくしの力を欲しました。そして従わなければ、やがて母の心臓に植えた種が芽を出し、成長して命を奪うだろうと…けれども献上されたわたくしはルガリエルでどの様な目に遭うかは分かりません。大樹ユガドの魔力供給を安定させる為に、わたくしを埋め込むかも知れない。実際根本に埋もれる様に眠るハーフハイエルフ達の棺がいくつもあるそうです。輝かしいハイエルフの国はその様な恐ろしい所…」
リュークは黙って聞いていた。
「ウーヴルの本拠地での戦闘で、偶然わたくしによく似た金髪で碧い目のアリアを見つけた時に、母の心に邪な気持ちが浮かんだのかも知れません。ダーク・ハイエルフ軍はその
「つまり…」
リュークが言いにくそうに口を挟む。
「アリアはあなたの代わりにルガリエルに差し出される予定だったわけか」
「…そうです…母が必死になって、ヴェイル様にお願いしてまでアリアの妖魔力を除去したのは、彼女の体内の魔力をすっかり光魔法に置き換えてハーフハイエルフに見せかける為です。わたくしが常にお側にいるのも、わたくしの力を少しずつアリアに蓄積させていく為でした…でも…」
ミレーヌはこちらに駆け戻って来ようとしているアリアとヴェイルを眺めた。
「わたくしも母も、もうアリアを愛してしまいました。あの子は可愛くて素直で素晴らしい。出来れば離れたくありません…」
「しかし、それではハウエリア様が…」
「母も大量虐殺の事は後悔しているのです。アリアを庇うのも…覚悟の上なのです」
「ミレーヌ!」
二人が目の前に戻って来た。
息を切らせた
「楽しかった!
興奮が収まらない。
「まあ少し浮いて駆けるからな…」
リュークが呟く。
「ヴェイル兄様ありがとう!私、城にお迎えの準備に戻ります。お二人共道はお分かりになるわね?」
アリアがヴェイルを降り仰ぎ、嬉しそうに言う。
「ああ、少し馬を休ませてから行かせて貰うよ」
ヴェイルも笑顔で返す。
「では、失礼します」
アリアとミレーヌが礼を言い、それぞれの
「で、ミレーヌ王女はなんだって?」
「…お前、わざとアリアをオレ達から引き離したのか」
「リュークが話したいだろうと思ってね」
「そうだったのか…オレはお前の突然の王子様ムーブに引いたぞ。恥ずかしげもなくよくあんなにスマートに誘えるな」
「それが…昔、一緒に
そう言ってヴェイルが黙ってしまったので、リュークは少し気の毒になった。
「…お前も頑張ったんだな…あ!」
彼が何か思い付いた様に言う。
「なんだ?」
「一つ聞くの忘れた。ミレーヌって子、なんでゴスロリなんだろうって」
「あ、ああ…逆に聞かなくて良かったんじゃないかそれ」
ヴェイルが苦笑いをする。
しかしリュークは畳み掛ける様に続ける。
「だってさ、全身真っ黒ゴスロリドレス軽武装、黒タイツにソルレットって凄くないか?あそこまで着こなすなんてビックリしたけど」
—リュークにしては珍しく、やけに詳細に見ているな…
ヴェイルは思ったが、そこには触れずに返す。
「…まあそうだけど、気付いたか?あの服装には俺達の重装甲鎧装さながらの防御魔法が掛かっている。恐らくは彼女自身の光属性魔法の力だ。ソルレットには
「ええ?…それは凄いな…城でオレ達と交えた時に、脚に草と草の汁が付いてたから、
リュークが感心して言う。
「あれは…彼女なりの覚悟の服装なんだろうな…アリアを護るっていう…」
ヴェイルはそう言うと、もう見えなくなった二人の姿を追う様に遠くを見た。