「…なんて恐ろしい…」
「…あれが『魔王の力』…か」
巨大な
「ヴェイル!アリア!」
リュークとミレーヌが駆け寄って来る。
「アリア様!」
ミレーヌが大斧を置いて思わずアリアを抱き締めた。
彼女達の姿を見留めると、ヴェイルは冑を脱いで向きを変え被害状況を一望した。
村の復興作業を共にした男性の遺体を見つけてハッとする。
側に泣き崩れる妻らしき姿があった。
「…弔いの言葉を掛けてやらなくていいのか?」
リュークが言う。
「…いや…今の俺はあの人達にとって、
ヴェイルは目を伏せてそう言うと、一人の遺体の所に向かった。
敵と見られるその亡骸は、リュークが投げた小刀を血みどろにして倒れていた。
近くにはクロスボウが落ちている。ナザガランにもトラフェリアにもない仕様の武器だ。
「…これは…俺達は遭遇したことはないが、恐らくはウーヴルだな」
「ウーヴル?例の大戦の生き残りがまだいたって事か?」
ヴェイルの言葉にリュークが驚く。
「…ああ…まずいな。奴らアリアに気付いたかも知れない…」
彼は失策に表情を歪めた。
魔族の国ナザガランの更に奥にあるカトル山脈に程近い森の中に、転移魔法を使って現れた者がいた。
右腕の傷口を、服の端を千切って縛って止血する。
そのまま巨大な樹木の上に作られた住居の中に入って行く。
中には数人の『ウーヴル』がいた。
入って来た者の姿を見て驚く。
「ユガ!どうしたんだその傷は!」
「…トラフェリアでやられた。トーダは死んだし、
「なんだと?5体も連れて行ったんだぞ?お前、トラフェリアは奴らの恰好の餌場だって言ってたじゃないか」
皆の中でも年長のウーヴルが言う。
「…この周辺は餌が少なくなって来たから…人間どもの国は結界が緩くてちょうどいいなんて思っていたんだ。でも今日は魔族の戦士が2人も駆け付けて来て…」
「魔族?トラフェリアが呼んだのか?」
「ああ。確かに魔族だった。しかも…顔は甲冑で分からなかったけれど、2人共想定外の強さで…トーダの遺品すら拾う隙がなかった…」
「そんな奴がいたらもう近付けないんじゃないのか」
ユガはドカっと椅子に座った。
「…でも、面白いものも見つけたんだ」
「面白いもの?」
脚を組み、肘を立てて顎を乗せる。
「戦士は4人いたんだけど、魔族以外に人間に化けた奴がいた。まだ子供だったが、恐らくは俺達と同じウーヴル。全身の魔法を光魔法にすり換えられていたけれど、俺達にそんな物は通用しない…」
「ほぼ殺された俺達以外にも生き残りがいた…?しかも人間として育てられて?」
「その子は女なのか?」
それまで黙っていた別のウーヴルが口を挟む。
「ああ。」
「…その子のいる場所は分かるか。トラフェリアは広いぞ…」
「奪いに行くのか」
「状況による」
ユガは口の端で笑った。
「魔族の一人にごく小さな『オズアンの根』を植え付けた。光魔法の回復なんかで取れはしない。ウーヴルの娘はそいつの近くにいる筈だ。根の妖気を辿って行け」
「『根』が見つけられてしまったら?」
「その時は妖魔力が瞬時に発動する。身体中に根を張り巡らせてそいつを殺すさ。…トーダの仇だ…」
「…ん?」
転移魔法陣で城に戻ったリュークが不思議そうに言う。
「どうした」
ヴェイルが聞く。
「…傷を受けた所になんか違和感が…あれ?なんともない」
「ミレーヌの回復魔法は優秀だ。だが気になるなら医局に行くか?」
「いや、大丈夫だ。回復魔法は属性問わないし、便利なんだな」
まだ続く背中のチクリとした痛みを、リュークは軽く笑ってそれ以上は伝えなかった。