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第12話 ウーヴルの罠

「……なんて恐ろしい」

「……あれが『魔王の力』か」


 巨大な闇竜アンライトを瞬く間に砂へと化したヴェイルの耳に、周囲の小声が届く……


「ヴェイル!アリア!」

 リュークとミレーヌが駆け寄って来る。

「アリア様!」

 ミレーヌが大斧を置いて思わずアリアを抱き締めた。


 彼女達の姿を見留めると、ヴェイルは冑を脱いで向きを変え被害状況を一望した。

 村の復興作業を共にした男性の遺体を見つけてハッとする。

 側に泣き崩れる妻らしき姿があった。


「……弔いの言葉を掛けてやらなくていいのか?」

 リュークが言う。

「……いや……今の俺はあの人達にとって、闇竜アンライトと同じぐらい恐ろしい存在だろうしな……」

 ヴェイルは目を伏せてそう言うと、一人の遺体の所に向かった。


 敵と見られるその亡骸は、リュークが投げた小刀を血みどろにして倒れていた。

 近くにはクロスボウが落ちている。ナザガランにもトラフェリアにもない仕様の武器だ。


「これは……俺達は遭遇したことはないが、恐らくはウーヴルだな」

「ウーヴル?例の大戦の生き残りがまだいたって事か?」

 ヴェイルの言葉にリュークが驚く。


「……ああ、まずいな。奴らアリアに気付いたかも知れない」

 彼は失策に表情を歪めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 魔族の国ナザガランの更に奥にあるカトル山脈に程近い森の中に、転移魔法を使って現れた者がいた。

 右腕の傷口を、服の端を千切って縛って止血する。

 そのまま巨大な樹木の上に作られた住居の中に入って行く。


 中には数人の『ウーヴル』がいた。

 入って来た者の姿を見て驚く。


「ユガ!どうしたんだその傷は!」

「トラフェリアでやられた。トーダは死んだし、闇竜アンライト達は多分……全滅だ。可哀想な事をした」


「なんだと?5体も連れて行ったんだぞ?お前、トラフェリアは奴らの恰好の餌場だって言ってたじゃないか」

 皆の中でも年長のウーヴルが言う。


「この周辺は餌が少なくなって来たから、人間どもの国は結界が緩くてちょうどいいなんて思っていたんだ。でも今日は魔族の戦士が2人も駆け付けて来て……」

「魔族?トラフェリアが呼んだのか?」


「ああ。確かに魔族だった。しかも……顔は甲冑で分からなかったけれど、2人共想定外の強さで。トーダの遺品すら拾う隙がなかった」

「そんな奴がいたらもう近付けないんじゃないのか」


 ユガはドカっと椅子に座った。

「……でも、面白いものも見つけたんだ」

「面白いもの?」

 脚を組み、肘を立てて顎を乗せる。


「戦士は4人いたんだけど、魔族以外に人間に化けた奴がいた。まだ子供だったが、恐らくは俺達と同じウーヴル。全身の魔法を光魔法にすり換えられていたけれど、俺達にそんな物は通用しない」

「ほぼ殺された俺達以外にも生き残りがいた…?しかも人間として育てられて?」


「その子は女なのか?」

 それまで黙っていた別のウーヴルが口を挟む。


「ああ。」

「……その子のいる場所は分かるか。トラフェリアは広いぞ」

「奪いに行くのか」

「状況による」


 ユガは口の端で笑った。

「魔族の一人にごく小さな『オズアンの根』を植え付けた。光魔法の回復なんかで取れはしない。ウーヴルの娘はそいつの近くにいる筈だ。根の妖気を辿って行け」


「『根』が見つけられてしまったら?」

「その時は妖魔力が瞬時に発動する。身体中に根を張り巡らせてそいつを殺すさ。……トーダの仇だ」



「……ん?」

 転移魔法陣で城に戻ったリュークが不思議そうに言う。

「どうした」

 ヴェイルが聞く。


「……傷を受けた所になんか違和感が……あれ?なんともない」

「ミレーヌの回復魔法は優秀だ。だが気になるなら医局に行くか?」


「いや、大丈夫だ。回復魔法は属性問わないし、便利なんだな」


 まだ続く背中のチクリとした痛みを、リュークは軽く笑ってそれ以上は伝えなかった。


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