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第12話 ウーヴルの罠

「…なんて恐ろしい…」

「…あれが『魔王の力』…か」


 巨大な闇竜アンライトを瞬く間に砂へと化したヴェイルの耳に、周囲の小声が届く…。


「ヴェイル!アリア!」

 リュークとミレーヌが駆け寄って来る。

「アリア様!」

 ミレーヌが大斧を置いて思わずアリアを抱き締めた。


 彼女達の姿を見留めると、ヴェイルは冑を脱いで向きを変え被害状況を一望した。

 村の復興作業を共にした男性の遺体を見つけてハッとする。

 側に泣き崩れる妻らしき姿があった。


「…弔いの言葉を掛けてやらなくていいのか?」

 リュークが言う。

「…いや…今の俺はあの人達にとって、闇竜アンライトと同じぐらい恐ろしい存在だろうしな…」

 ヴェイルは目を伏せてそう言うと、一人の遺体の所に向かった。


 敵と見られるその亡骸は、リュークが投げた小刀を血みどろにして倒れていた。

 近くにはクロスボウが落ちている。ナザガランにもトラフェリアにもない仕様の武器だ。

「…これは…俺達は遭遇したことはないが、恐らくはウーヴルだな」

「ウーヴル?例の大戦の生き残りがまだいたって事か?」

 ヴェイルの言葉にリュークが驚く。

「…ああ…まずいな。奴らアリアに気付いたかも知れない…」

 彼は失策に表情を歪めた。



 魔族の国ナザガランの更に奥にあるカトル山脈に程近い森の中に、転移魔法を使って現れた者がいた。

 右腕の傷口を、服の端を千切って縛って止血する。

 そのまま巨大な樹木の上に作られた住居の中に入って行く。


 中には数人の『ウーヴル』がいた。

 入って来た者の姿を見て驚く。


「ユガ!どうしたんだその傷は!」

「…トラフェリアでやられた。トーダは死んだし、闇竜アンライト達は多分…全滅だ…可哀想な事をした」

「なんだと?5体も連れて行ったんだぞ?お前、トラフェリアは奴らの恰好の餌場だって言ってたじゃないか」

 皆の中でも年長のウーヴルが言う。


「…この周辺は餌が少なくなって来たから…人間どもの国は結界が緩くてちょうどいいなんて思っていたんだ。でも今日は魔族の戦士が2人も駆け付けて来て…」

「魔族?トラフェリアが呼んだのか?」

「ああ。確かに魔族だった。しかも…顔は甲冑で分からなかったけれど、2人共想定外の強さで…トーダの遺品すら拾う隙がなかった…」

「そんな奴がいたらもう近付けないんじゃないのか」


 ユガはドカっと椅子に座った。

「…でも、面白いものも見つけたんだ」

「面白いもの?」

 脚を組み、肘を立てて顎を乗せる。


「戦士は4人いたんだけど、魔族以外に人間に化けた奴がいた。まだ子供だったが、恐らくは俺達と同じウーヴル。全身の魔法を光魔法にすり換えられていたけれど、俺達にそんな物は通用しない…」

「ほぼ殺された俺達以外にも生き残りがいた…?しかも人間として育てられて?」

「その子は女なのか?」

 それまで黙っていた別のウーヴルが口を挟む。

「ああ。」

「…その子のいる場所は分かるか。トラフェリアは広いぞ…」

「奪いに行くのか」

「状況による」


 ユガは口の端で笑った。

「魔族の一人にごく小さな『オズアンの根』を植え付けた。光魔法の回復なんかで取れはしない。ウーヴルの娘はそいつの近くにいる筈だ。根の妖気を辿って行け」

「『根』が見つけられてしまったら?」

「その時は妖魔力が瞬時に発動する。身体中に根を張り巡らせてそいつを殺すさ。…トーダの仇だ…」



「…ん?」

 転移魔法陣で城に戻ったリュークが不思議そうに言う。

「どうした」

 ヴェイルが聞く。

「…傷を受けた所になんか違和感が…あれ?なんともない」

「ミレーヌの回復魔法は優秀だ。だが気になるなら医局に行くか?」


「いや、大丈夫だ。回復魔法は属性問わないし、便利なんだな」

 まだ続く背中のチクリとした痛みを、リュークは軽く笑ってそれ以上は伝えなかった。



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