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第14話 アリアの真実と光玉貝

 ウーヴルの生き残りのアリア強奪事件は、彼女の過去を明かすきっかけになってしまった。


 暖炉の灯りが幻想的に揺らめくプライベートな部屋で、アリアと女王ハウエリア、ミレーヌ、リューク…そしてヴェイルの5人が沈黙していた。


 アリアが言う。

「私は……狂戦士ウーヴルの生き残り……私は……魔族だったのね」

「ごめんなさい。謝って済むことじゃないけれど、本当にごめんなさい……」

 女王ハウエリアが涙を溢しながら何度も言う。その母を、認識阻害魔法が解かれて本来の姿に戻ったミレーヌが支えている。


「ううん、本当はずっと前から気付いてた。私が……黒い煙の発作を起こしたあの時から。なんか、変だなって思っていたの。ミレーヌが金髪になって、光って抱き締めてくれて。

 お母様も駆け付けた時に真っ先にミレーヌの心配してて……ああ、私じゃないんだ……あの子が本当のお母様の……お姫様なんだって」

 アリアの瞳に涙が溢れ、視界が少しボヤけた。


「でも、それでも誰も変わらなかった。変わらず私に接してくれたの。おかしいじゃない?本当なら、私はハーフハイエルフなのに、身体から湧き上がる力には闇属性魔法の妖魔力があったなんて……存在がもう得体が知れなくて怖いじゃない。

 なのに、周りの人は皆んな、私の事を可愛がって愛してくださった。……そうでしょう?お母様」


 ハウエリアが何も言えずにうんうんと頷く。


「だから」

 アリアは天井を仰いだ。

「私は皆んなの期待に応えたくて、勇者になったの。幼い頃から戦いだけは自信があったのよ?どうしてかなぁって思っていたけれど、純血の狂戦士だもの。当たり前よね」


 ヴェイルが言う。

「……俺はしかし、大戦でアリアの本当の両親を殺した者の息子だ。……心から詫びたい」


「わたくしもです。あの時はそれが正義だと思っていました。けれども、あなたを見つけて我に帰ったのです。いえ、その時はまだ、ミレーヌの代わりにルガリエルに差し出そうとも考えていました……

 でも、一緒に過ごす内にあなたがとても可愛くなって来て……私の償いと言うには余りにも身勝手ですが、本当にあなたの事を愛しています……」

 ハウエリアも続けて言う。


 彼女は首を横に振った。

「ありがとうございます。ヴェイル兄様、お母様。もういいのよ」

 場に沈黙が広がった。


 暫くしてリュークがハウエリアに向かって口を開いた。


「しかし、ルガリエルの件はどうされます?今までにもそろそろ王女を献上しろと催促があったと聞きましたが。要するに、ハウエリア様の心臓に埋め込まれた種を取り除けば言う事を聞かなくても宜しいのではないでしょうか。ヴェイルになら出来るかと思いますが……」


 それを聞いていたヴェイルが答える。

「リューク。埋め込まれて何年も経った種は同化しているから俺では上手く取り除けるか分からない。しかも魔族ではなく光属性の人間相手。場所は心臓だ。お命に関わる」


「そうか……」

 彼は腕を組んで考え込み、今度はヴェイルに向けて言う。


「しかし、大体ルガリエルは変じゃないか?人間に手を貸しつつ強い力のある子供は献上しろなどと……人間の国を完全に支配下に置きたいのか、もしくは滅ぼしたいのかとでも思ってしまうぞ?」


 リュークが畳み掛ける。

「アリアの存在を知っていたのかどうかは分からないが、最近になってウーヴルが闇竜アンライトを連れて人を喰い荒らす様になったのもおかしい……」


 ヴェイルも考え込んだ。

「この一連の事件、裏があるかも知れない。とにかく情報が少ないから俺は一旦ナザガランに戻り、ウーヴルの事を調べる」


「待って兄様、私も連れて行って」

 アリアが口を挟む。


「私の本当の種族の事が知りたいの。闇竜アンライトの事も」

「トラフェリアを離れるとまた身体の中から妖魔力が湧き出るかも知れないよ」

「……それは……」


 ヴェイルはじっとアリアを見ていたが、つと顔を上げた。


「分かった。俺はアリアを連れて行く。リュークはここに残ってミレーヌとハウエリア様の護衛をしてくれ。それから、ウーヴルの侵入を防ぐ為に防御魔法が使える魔王軍一個小隊を派遣して、常に国全体に防御魔法ランドアントを張り巡らせる。陣頭指揮もお前に頼む」


「だがヴェイル。奴らは闇属性も光属性も通過してしまうぞ?」


 ヴェイルは自分の前に右手を翳した。

 その手の中に黒い煙が浮かび上がり、渦を巻いて人の頭ほどの黒水晶の球になった。


「この中に俺の身体の中の妖魔力を込めた。術を掛ける時にこの増幅器を通すと魔力が掛け合わされ、闇属性と妖魔力が加算された防御魔法ランドアントが形成出来る筈だ。これなら一定の強さの妖魔力も防御出来る。これを置いて行く」


 その場にいた皆が珍しそうに球を見つめる。

 続けて彼が言う。

「それから、一度この場の皆んなの戦力を確認しておきたい。ミレーヌ、君は魔法術式は覚えられるかな?」


「はい……闇属性も光属性も力の源が違うだけで方程式は同じ筈ですし、わたくしもハーフハイエルフですから」

 ミレーヌが答える。


「よし。今からいくつか教える。ハウエリア様、貴女は?」

 ヴェイルがハウエリアを向いて言う。


「わたくしは……大聖女の頃に使えた物がいくつかありますが、今は心臓の種のせいであまり強力には使えません。強いて言えば時間界ザスタビーチェですか……」

 彼女は軽く胸の辺りを押さえた。


「ザスタビーチェ?……時を止める魔法ですか……失礼かも知れませんが、貴女様は『時間の魔女』でいらっしゃるのですね」


「『時間の魔女』……現行実用許可が通っている魔女様……ですか……」

 リュークが呟く。


「……ではそのお力を踏まえて今後の作戦を考えましたので、その様に動いていただきます」

 ヴェイルが平然として言う。


「おいおい、お前がそんな事言っていいのか?」

 リュークが訳が分からないと言う顔をした。


 ハウエリアも言う。

「そうですよ…それに何故魔王陛下はそこまでトラフェリアによくしてくださるのですか?我が国はナザガランには何も出来ませんが……」


 ヴェイルが一瞬キョトンとする。しかしすぐに花の様な柔らかな笑顔で答えた。

「そうですね。では、海のないナザガランでは珍しい光玉貝他の海産物を、帰りの俺の虹馬アルカンシエルに少し積んで頂けますか?」



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