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第24話 悪魔の様な王と目覚めたヴェイル

 翌日『「親善外交特使として単身ナザガランを訪れていた勇者でもあるトラフェリアの王女アリア」がウーヴルの急襲を受け、庇った魔王が相打ちとなり亡くなった』という名目でヴェイルの国葬が行われた。 


 来賓にはトラフェリアの傀儡の女王ハウエリアとシュダークも姿を見せている。

 魔王の能力を恐れていたトラフェリアの民は、アリアを庇った功績を讃えて彼に感謝した。

 ナザガランでは魔王の職に、前魔王であるグラディス=ヴォルクリアが再び就任した。



「魔王ヴェイル=ヴォルクリア……とうとうあの世へ行ったな。邪魔な奴だった。あの方もご満悦だろう……」

 ハイエルフの国ルガリエルの王宮で、満足そうに玉座に座るシュダークがいた。

 膨大な光属性の魔法を、大樹ユガドに集めた棺に眠らせてあるハーフハイエルフ達から奪っている。


 彼はつと跪く側近に指を向ける。

「お前の娘は……7の棺だったな」

「……はい」


「なかなか強く美しい魔力ではないか。我が国への貢献、痛み入るぞ」

 シュダークはそう言うと指先にボオゥとその者の魔力を照らしてみせた。


 側近は深々と頭を垂れ

「……お褒めに預かり光栄にございます」

 と答える。

 しかしその伏せた顔には屈辱と怒りが溢れており、握られた拳が微かに震えていた。


「後はトラフェリアのミレーヌ。彼女の光魔法は特別な味がするに違いない……」

 シュダークはそう言うと、手に持ったグラスをゆったりと口に運んだ。



 ナザガランの城内の静かな部屋の一室で、ヴェイルが意識が戻らないまま眠っていた。

 部屋の端のソファーには、座った状態のアリアもスヤスヤと眠っている。


「……」


 ヴェイルが目を覚ました。

 暫くぼんやりしていたが、苦しげに眉を顰め額に右手をやる。

 その時自分の手に、手首から先の丈夫で指先まであるグローブが嵌められている事に気付いた。左手も同じ状態だ。

 ハッとして両手を目の前に上げて眺めていたが、ため息を吐きパタンと落とした。


「……気が付いたか」

 側に座っていたパトラクトラが声を掛ける。少し立ち上がり、彼の身体の上に手を翳して状態を探る。


「ふむ。もうすっかり治ったようだ。気の流れも正常だ」

 彼女はそう言うと、安心したのか大きなため息を付いて座り直した。


「……俺はどうなっていたんだ」

 ヴェイルが聞く。


「……エルフの剣に貫かれた事は覚えているな?あの時、心臓は私が預かっていたから無事だったが……肺や食道の損傷に肋骨の骨折とがあって……

 お前の身体は他人の回復魔法を受け付けないから自力で回復するのを待つしかなかったのだが、身体が治っても2日も意識が……戻らなくて……今回ばかりは私が……術をしくじったのかと思ったぞ」


 パトラクトラが珍しく言葉に詰まりながら答えた。


 人知れず泣いていたのだろうか、目元が少し赤い。

 そんな母の様子を見た事がなかった彼が言葉をなくして見つめる。


「全く無茶をする。身体から心臓を抜いた後のお前は、魔力で体内に心臓の形を作って血液を循環させていただろう?少しでも気を抜いたら止まるかもしれないような、不安定な仮初の命だったんだぞ。そして遠隔操作によって本物の心臓を維持させる事にも大量の魔力を使い過ぎたんだ」


「……母上もずっと俺に魔力供給してくれていたよな。だから気絶した時も死ななかったんだろう?……ありがとう。それに、心配掛けてごめん」

 怒り気味に捲し立てるパトラクトラにヴェイルが礼を言う。彼女は黙ってしまった。


「それでこの……魔術通過阻害グローブは……」

 彼が手を挙げて見せた。


「今、お前の体力も魔力もほぼゼロに近い。明日には回復すると思うが、現象が完全になくなるまでは着けておいた方がいい」


「魔力ゼロ……か」

 ヴェイルはまた、諦めた様にため息を吐いて顔を背けた。


「……そんな身体で生まれさせてしまい、不憫に思っている」

 パトラクトラが言う。彼は目を見開き、向き直って彼女の顔を見た。


「そんな事はない。母上は本当に頑張ってくれていただろ?こんな物、魔力が回復すればすぐに抑えられる」

「そうか」

 パトラクトラがやっと微笑んだ。


「……ところでお前の葬儀の件だが、言われていた通り盛大に行ってやったぞ。まさか本当に行う事になるとは思っていなかったが……同じ頃病気で亡くなった老人がいたのだが、遺族に頼み込んで私が認識阻害魔法でお前そっくりに仕立て上げて棺に入れた。

 念の為に布で顔も隠して、確認したがる者にも『重度の損傷だから見ないでやってくれ』と私が泣きながら訴えた。これで偽物のハウエリアもルガリエルの国王も、お前が死んだ事を疑わない筈だ。」


「何もかもありがとう」


 素直に礼を言うヴェイルに、彼女が続けて聞く。

「お前、私に『心臓を預かって欲しい』だの『国葬の準備をしておいて欲しい』だの……こうなる事が最初から分かっていたのか?」


「……少なくとも『やられたフリ』はしようと思っていた……適当な所で殺された様に見せようって。

 流石にここまで本格的に『殺される』つもりでは……なかったんだ」


 彼は答えながら思い出して背中がゾワリとしてしまった。我ながらよく生きていたものだ、とも思った。


 パトラクトラも当時のヴェイルの怪我の具合を思い出して怖くなり、両腕を抱いて顔を背けて言う。

「……とにかく、後の出方はお前次第だが、何故ルガリエルの国王シュダークはお前の命を狙ったのだろうか。

 トラフェリアを征服するのに、味方をしているお前が邪魔だからか?」


「それもあるとは思うけれど、ミレーヌを王女として認めさせて堂々と献上させる為かなとも思う……」

 彼が答える。実際の所はどうなのか本人も知りたかった。


「シュダークか……かつて大戦の合同軍で共に戦ったが、その頃から食えぬ奴だった……それがまさか私の息子を討伐しようとするとはな」

 パトラクトラが忌々しそうに呟く。


 しかし、ふと気付いてヴェイルに伝える。

「そうだ、アリアも本人が側で追悼したいと言う名目で暫く預かっていたんだ。あそこで眠っている」


「え?」

 ヴェイルは急いで半身を起こした。パトラクトラが手伝って、ベッドの角度を変えてやる。

 彼はソファーの上で眠っているアリアを認めると、少し切なげな表情で見つめた。


 パトラクトラはヴェイルの様子を暫く見ていたが、

「……何か食べられそうな物を用意させる」

と言って部屋からそっと出て行った。



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