あれから10日程経った。
ヴェイルとリュークは、アリアの妖魔力の状態を確認する為にトラフェリアを訪れていた。
トラフェリア軍の武器庫の横にある、広い演習場でアリアの力を引き出させてみる。
「妖魔力を右手に集中させて。アリア独自のイメージでいいから、こんな剣になって欲しいって願ってみて。刃付けは無しで」
彼女の横に立つヴェイルが言う。
アリアが右手に集中し、目を瞑ってイメージする。
暫くするとオーロラの様な光が降り、剣が現れた。
それはツガンニアの物とは違い、柄の部分はレイピア風だが刀身に反りが入っている。
「湾刀のエルフの剣?珍しいな」
芝の上に三角座りをしていたリュークが言った。
ヴェイルが受け取り、刃の部分をコンコンとこづく。
「硬度、6.5。湾刀なのも斬撃を得意とするアリアに向いている。初めてにしては上手に出来たね」
「アリア、その剣でわたくしとお手合わせ願えませんか?」
隣で見ていたミレーヌが言った。
いつものゴスロリ黒タイツソルレット姿だが、今日の彼女は長刀サイズの模擬刀を持っていた。
「お願いします」
アリアが言う。
ヴェイルから剣を受け取って構える。
彼はリュークの元に避難し、同じ様に三角座りをする。
「ハアアッ!」
2人は叫び、激しく剣をぶつけ合った。
ガィンガィンっと金属様の音がする。アリアの振りをミレーヌが捌く。
クロスににじり合わせ、お互いに飛び退く。
並走し、飛び掛かって剣を交える。
「おー強いな、2人とも」
リュークが言う。
「これ、お前がルガリエルに潜入しなくても本人で良かったんじゃないか?」
「……ミレーヌに人殺しはさせられないだろう……」
背中を丸め、三角になった膝に両手を回して2人を眺めているヴェイルが答えた。
「あ、そうか。シュダーク暗殺がメインだったもんな」
激しい剣撃が続いていたが、急にアリアがあっと叫ぶ。エルフの剣が消えてしまったのだ。
後ろにグンっと飛び、片手でバク転をして着地する。
ミレーヌも動きを止めた。
「あー、継続時間はそんなに長くないな……」
そう言いながらヴェイルが駆け寄った。
「うー残念……」
息を切らしながらアリアが言う。
「ううん、よく維持出来たと思うよ」
彼が褒める。そしてミレーヌに向き直り、
「ミレーヌも見事な剣撃だね。長刀がそこまで使えるとは思わなかったよ」
と言った。
「ありがとうございます」
彼女も息を切らして答える。
「誰かさんのお陰でルガリエルからトラフェリアに物凄く沢山の問い合わせが来てるんですよ……『あのユガドの大樹を消滅させた戦乙女を出せ』って……大概の人はわたくしがやったと思ってますからね。ある程度鍛錬を積んでおかないと……」
「ええ?……それはすまない……」
ヴェイルが謝る。
ミレーヌは姿勢を戻してリュークにも聞こえる様に言う。
「全くです。嫁に来いって何人もの貴族からも言われてるんですよ?わたくしにはそんな気はありませんのに……」
ぷいと顔を背けてみる。
「ハハハ。戦乙女じゃなかったとしても、そりゃそれだけ綺麗で強かったら皆んなミレーヌに憧れるだろう」
リュークが笑いながら言う。
彼女がますます何故だか悔しそうな顔をし、思い切って言う。
「リューク様はわたくしが勝手にどなたかに嫁いでもよろしいのですかー?」
「え…?と、えっ……それは……出来れば一言言って欲しいかな、うん」
彼が突然の質問に口籠った。
「一言?」
ミレーヌが問いただす。
「あ、やっぱり……勝手には嫁がないで欲しい」
リュークは焦って言ってしまった。
「おお……」
「あら……」
ヴェイルとアリアが少し驚いた顔でリュークを見る。
ミレーヌは少し嬉しそうな顔になり、照れ隠しなのか休憩を提案する。
「……わたくし、そろそろ部屋に戻ってお茶の準備をして来ますので、皆さんも休憩としてお越しになって。今日はシルフェンピーチのタルトをたくさん焼いたんです。召し上がってくださいね」
そう言うと彼女は急いで片付けをし出した。
「ミレーヌはもう王女なんだから侍女に用意させれば?」
アリアが聞く。ミレーヌは彼女に向き直った。
「ううん。わたくしが皆さんの為に用意したいの。でもそうね、あなたにも手伝って貰おうかしら。いいお茶が手に入ったのよ?」
「うん。じゃあ、一緒に行く」
そして2人は「後で来てね」と言葉を残し、片付けて去って行った。
「俺達さ、幸せ者だよなあ……」
彼女達の後ろ姿を眺めながら立ち上がったリュークが言う。
ヴェイルは微笑んで、歩き様に彼の肩をポンと叩いた。