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第40話 戦乙女バトルマッチ 3

 ——今、俺はなんて言ったっけ……


 『私が思いを寄せているのは魔王陛下、ヴェイル=ヴォルクリア様ただお一人です』って?

 ……え、自分大好きか……

 いやしかし、大体俺より強い奴はそうそういないと思うし、諦めさせるにはいいんじゃないだろうか。


 ヴェイルは両手で鼻と口を包む様にしうつむいて考えてしまった。

 それが側からは照れてしまった様に見えて何とも可憐だった。


「ヴェイル様……」

 ミレーヌが、いけないこのままでは推しになるという表情をした。


「あーあ。……無理せずオレって言っとけばいいのに……」

 リュークが飲み物を口に運びながら言う。


 ——ヴェイル……私も……ヴェイルの事が……

 アリアが何を思ったのか頬を染めて心の中で呟いている。


 そういう事は早く本人に伝えてあげた方がいいのではないだろうか。


「……魔王ヴェイル=ヴォルクリアか……確かにアイツは強いが狂気の王とも聞く」

 騎士の一人が言った。


 ―—悪かったな……

 ヴェイルは内心ムッとした。


 3人の騎士は何やら集まって話していたが、暫くすると彼の方に向き直った。


 1人が剣を担いでニヤニヤしながら言う。

「狂王が好きなお姫様はさぞかしお強かろう。我ら3人一度にお相手いただけるだろうか」

「何っ?!」


 その男が言い終わらないうちに、闘技場いっぱいに広がる白く輝く半球の結界が張られて行った。

 見ると彼の後ろの人物が術を掛けている。

 中から外は見えず、外からも中は全く見えない。完全な密室状態となってしまった。


「なっ……」

 観客席から見ていたリュークが驚いた。

 彼だけではなく、闘技場全体の観客全てがザワザワと言い始めた。


「あれは……中に強力な魔力を持ったハーフハイエルフがいるな……全然見えないどころか、魔法も通さない結界だ。まずいな」

「リューク様、どうしましょう」

 ミレーヌが聞く。


「どうって……一応今日は模擬戦みたいなもんだったんだろ?見守るしかないが……うーん……」

「でもあの結界じゃ、ヴェイルは武器も召喚出来ないんじゃないですか…?」

 アリアが心配する。彼が続ける。


「そうなんだよ。やつら『試合が白熱し過ぎてしまった』とか言ってヴェイルを殺してしまうつもりなんじゃないだろうな……相手は出自不明の戦乙女の鎧を着たただの女だ、国際問題にはならないと踏んでいるんじゃないか?」

「そんな……」

 アリアがまた心配そうに結界のドームをみた。


 結界の中では3人の男がヴェイルを囲んでいた。

 彼らはそれぞれ真剣の長刀やサーベルを構えている。

「この結界の中では武器は召喚できまい。丸腰のお前に何が出来るかな」

 3人はジリジリと迫って来る。


「何が目的なのです?私を娶る、と言う話とは関係ない様ですが……」

 ヴェイルが立ったまま聞いた。


「もうそんな事はどうでも良くなって来たんだよ。お前を見ていると何だか腹が立って来てな。よくあるよなあ……模擬戦で白熱し過ぎてうっかり相手を殺しちまう、なんて事はさ」


 ―—下衆め。

 ヴェイルは思った。


 こちらこそいっそ『うっかり』を装って殺してしまおうか……

 自分にとって、それは容易い事だ。

 しかし、ミレーヌやアリアの手前、そんな事は出来ない。


 彼は両腕に丸い盾の形に防御魔法ランドアントを掛けた。

 この結界内では武器召喚は無理でも自発魔法は掛けられる様だ。


 4人はそれぞれ動き出した。


 3人の男は交互にヴェイルに斬りかかってくる。

 彼はそれを盾で防いだ。


 更に神速ユマラキーロスを掛けて結界を駆け上がり、腕をクロスさせて男達に向かって飛び、盾の部分をぶつける。

「うわっ!」

「コイツ!」

 2人の男が倒れ込む。着地して飛び退いた所に別の1人が斬りかかって来るのを盾で受けて、剣を滑らせずらしていなす。


 その流れで後ろ向きに回転してバックハンドブローを食らわせ、そいつも弾ける様に飛ばしてしまう。


剣葬トラオーレイ!」

 男の1人が立ち上がる前に光剣を胸の高さに数本召喚しヴェイルに向けて飛ばす。

 ミレーヌの使った技だ。闇竜アンライトの鱗を突き抜ける程の威力がある。


 ヴェイルはくるぶし横の小翼の虹馬アルカンシエルの生体術式を使い、高く飛び上がって回避する。


 ―—なかなかやるな。ミレーヌではコイツらの相手は無理だろう……


 彼が着地し走りながら考えていると、突然両足首を捉える様に紐の様な物が巻き付いた。

 3人の誰かの魔法だ。


 あっと思ったがバランスを崩す。彼の上に男が飛び上がって来た。

氷霜剛剣グラディオスレイ!」

 瞬時に上を向き魔法の氷の剣を出現させて投げる。


 しかしそれは男には当たらず結界の天井辺りに刺さってしまった。


 そのままドンとそいつに上に乗られてしまう。

「うっ!」

 仰向けに倒され、左右の腕も後に続いた残りの男2人にそれぞれ押さえつけられてしまった。


「詠唱出来ない様に口を塞げ!」

 誰かが言った。すぐさま乗っている男がヴェイルの口を手で塞ぐ。


 ……もうもうと立っていた砂埃が、暫くしておさまった。


 地面の上に、3人の男に仰向けに押さえ付けられているヴェイルの姿があった。




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