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帰宅部なのに、なぜか毎日活動報告がある件について
帰宅部なのに、なぜか毎日活動報告がある件について
マカロー
現実世界青春学園
2025年06月03日
公開日
1.7万字
連載中
秋山翔太――ただの高校2年生。 彼が通う山北西部高校には、なんと「帰宅部」という名の部活が存在する。 帰宅部は、文字通り「部活に属さず、まっすぐ家に帰る」をモットーに掲げた、謎多き“部活”だ。 しかしその実態は、毎日7限後に20分間のミーティングを開き、下校時に起こった小さな出来事を語り合う独特の活動をしている。 「部長は幽霊部員」 「部員は体育会系から文学少女、癒し系男子まで個性豊か」 「今年あと2人以上入部しないと廃部の危機」 翔太は最初、帰宅部に入ることに抵抗を感じつつも、個性的な仲間たちと交わるうちに、帰宅部の不思議な魅力と温かさに気づいていく。 これは、部活にも属さず、特別なこともない毎日の“普通”を大切にしながら、互いの小さな日常を共有し合う、高校生たちのゆるくてちょっと変わった青春群像劇。 部活の存続をかけた帰宅部の、地味だけど心温まる活動報告が、今日も校舎の隅で静かに始まる――。

第1話 「帰宅部、入部のススメ(?)」

帰宅部――。


それは、世間一般に言うところの「部活に属さない学生」を指す言葉だ。


そう、あくまで一般的には、だ。


だが俺、秋山翔太あきやましょうたが通うこの山北西部高校では――違った。


「帰宅部」という部活が存在する。


もう一度言おう。


「帰宅部」があるのだ。


今日は新入生向けの部活動紹介会の日。


校庭に面した講堂は、人でごった返していた。


サッカー部は爽やかにシュートの実演を披露し、バスケ部はリズミカルなパス回しを見せる。演劇部は軽妙な寸劇で笑いを誘う。どの部も新入部員獲得に必死で、体育会系の熱気が満ちている。


そんな中、俺はステージ袖で眉をひそめていた。


「帰宅部」が呼ばれたのだ。


「えっ、帰宅部ってなんだよ?」


心の中でつぶやく俺の耳に、ざわめきが流れる。


いくつかの目がこちらを見ている。


司会が叫んだ。


「次は帰宅部の紹介です!」


「マジかよ、どんな部活だよ、帰宅部って……」


客席から漏れる笑い声に拍車がかかる。


すると、ステージの後ろからゆっくりと三人の学生が現れた。


第一印象は――異様だった。


「きりーつ!」


「きをつけー!」


「お願いしまーす!!!」


声がでかい、うるさい、しかも揃いすぎ。


まるで体育会系のようなテンションだ。


俺は思わず顔をしかめた。


「帰宅部なのに、なんで体育会系みたいなノリなんだよ…?」


ステージ中央に立ったのは、帰宅部の部長らしき男。


背は高く、整った顔立ちに涼しげな眼差し。


黒縁眼鏡の奥からは、知的な光がチラリと見えた。


しかし、その表情はどこか陰鬱で、まるで毎日の活動が苦痛なのを隠しきれていない。


彼は深く息をつき、ゆっくりと口を開いた。


「我々帰宅部は、"目指せインターホン" を合言葉に活動しております。」


「目指せインターホン?」


客席から困惑の声が漏れた。


彼は苦笑いを浮かべながら続ける。


「そうです。インターホンのように毎日、確実に家に帰ること。これが我々の目標であり使命なのです。」


俺は思わず吹き出しそうになった。


「そんな目標、当たり前すぎるだろ…」


部長は続けた。


「そして、我々は毎日、7限目の後に20分間のミーティングを開催し、前日の下校時に起こった出来事を全員で報告し合います。」


20分!?


俺の心は揺れた。


「…微妙に長くないか? しかもなんで帰宅後の報告会なんだ?」


「ていうか、なんで入部する前提で話してんの、俺…?」


焦りがじわじわと俺の頭を覆い始める。


そんな俺の視線の先に、一人の女子生徒がふと映った。


帰宅部の副部長、三浦絵里。


彼女は明るい茶髪をポニーテールにまとめ、ちょっとだけスポーティーな服装だ。


大きな瞳はキラキラと輝き、笑顔は優しく、しかしどこか鋭い。


彼女が口を開いた。


「実はね、今年の帰宅部はあと2人以上入らないと廃部になっちゃうの」


場内にどよめきが広がる。


「だから新入部員は大歓迎です! 一緒に活動報告会、やろうよ!」


その言葉には熱意が込められていた。


俺は思わずツッコミを入れた。


「ていうかさ、副部長、部長はどこ行ったんだよ!?」


副部長は少し間を置いて、くすっと笑った。


「部長はね――幽霊部員なの」


「は?」


「えぇ、そう。普段は全然顔を出さないし、連絡もほぼないの。でも責任はしっかり部長にあるのよ」


「幽霊部員ってなんだよ!」


会場は笑いに包まれた。


俺は心の中で決めた。


「帰宅部、絶対入らねえ」


でも、どこかその奇妙な“部活”の空気に惹かれている自分もいた。


帰宅部――それは、普通じゃない“普通”の居場所だった。


部活動紹介会が終わると、俺はポケットのスマホを取り出した。


「帰宅部に入らない」という意志と裏腹に、なぜか副部長の三浦の明るい笑顔が頭から離れなかった。


「もしかしたら、ここに俺の居場所があるのかもしれないな…」


そんなことを考えながら、俺はぼんやりと夜空を見上げた。



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