目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

06


 獣人――ヒトの魂と魔獣を含めた獣の魂が混ざり融け合い、ふさわしい肉体として世界に産み落とされ、種族として確立した者達の総称。


 ヒト――世間一般的にはエルフや精霊の民と呼称される者達の種族名。特定の時代では真人などとも呼ばれている。


 この世界の二足歩行の生物は全て、ヒトとの混血、ヒトとの魂の融合を果たした者達である。また、ヒトと人族は異なる種族である。



「――もふもふ〜♡」

「ふあっ!?」

「やめろ、バカ!?」


 金色の毛並みが美しい狐耳の金髪少女――レナから生えている尻尾を、精霊神ソーマがもふもふと優しく撫でているのだが、その遠慮の無さっぷりにエレノアが慌てて止める一幕が、なんとも微笑ましい。

 しかし、狐耳の金髪少女レナを含めた、そこに暮らす、いや、暮らすことを強要された者達を取り巻く環境は、あまりに酷い。


 ソーマたちはその現実を、集落に到着してすぐに知ることになったのだ――



「――話には聞いてたけど、こんな……」

「情報だけが広く知れ渡っていようとも、実際や実態は知りえぬ。邪心に染まった奴等の、なんとも浅ましい振る舞いよ」


 人族至上主義を掲げるミーティアル帝国には、ファルデア王国のような他種族への理解が深く寛容な国々から忌み嫌われている、とある振る舞いがある。

 それは、奴隷制度――特に、他の種族を真っ当な理由もなく強制的に隷属してしまうような、生命の尊厳を踏みにじるような振る舞い。当然ながら、帝国の他種族への扱い方は、他国から非難の的となる。

 以前からミーティアル帝国の奴隷制度には問題があると、周辺国家も警鐘を鳴らしていたものの、素直に従うような帝国ではない。

 ここ数年は、さらに酷いことになっているとファルデア王国の市井の間にすら広まっており、エレノアもその噂は聞き及んでいた。


 だが実際は、その実態は、エレノアが聞いていた噂話以上にむごいものだった。


 獣人やエルフのような人族以外の他種族の奴隷は、一定の条件を満たさない限り、各地の都市への立ち入りは禁じられ、未開領域の開拓村にて強制的な開拓作業に従事させられる。ひとたび戦となれば強制徴兵させられ、奴隷兵として最前線のさらに最前――帝国正規兵の盾となり壁となることを強いられる。そこに、老若男女による差は無い。


 ミーティアル帝国という国では、人族以外に、まともな自由は存在していないのだ。


 悲痛な表情のエレノアを前に、何を伝えるかを逡巡しているエルス。下手な慰めなど当の本人が求めていないことを理解しているエルスは口を開けず。


 そんな、なんとも重い空気の中――


「エルっち、お肉、食べたーい♪」


 空気を読むということをまともにしたことがない精霊神ソーマが己の感情に従い、素直な言葉を吐く。


「おまえ、なに、を……そうか!」

「流石は精霊神さま……さっそく、次なる一手をお指しになるとは――」

「ふぇ?」


 ソーマの言葉に、エレノアとエルスの二人が揃って、その考えに至る。

 未開領域における開拓作業、その一助になりたいと考えた時、最も貢献できる行動がある。


 未開領域が未開であるのには理由がある。

 生物の魔物化の原因は、主に二つ。


 ――高い濃度の魔素。

 ――未開領域で形成される魂の残滓の澱。


 この二つは、結果としては同一の事象を引き起こすものの、その経緯がまったく異なる。

 そして、未開領域が開拓されない、されにくいことの理由は、前者と繋がる。


 未開領域最奥に座する、災厄を凌駕する怪物。その魂が内包する強大な魔力が膨大かつ濃厚な魔素を生み、多くの魔物を産み出す。その怪物の在り方は、魔物にとって母に等しい。


 破滅級――レイドモンスターとも呼称される存在、未開領域の主の討伐こそが、未開領域開拓において最大の功となる。



 傭兵ギルド及び冒険者ギルド合同による、魔物の脅威度を示す等級表


 正体不明(アンノウンとも呼称される)

 破滅級

 災厄級

 準災厄級

 上級

 中級

 下級

 最下級


 正体不明アンノウンと最下級を除く全ての等級は、星の数を用いて脅威度を細分化している(星五が最大、星一が最低)



「――エルっち、おかわり〜♪」

「あたしも!」

「あ、あの……私、も……」

「しばし、お待ちを――」


 かつて冒険者は、探索者と呼ばれていた時代もあり、読んで字の如く、探索する者として活躍していた。そして、冒険者と探索者、そのあり方は同一、何も変わらない。ただ単に、呼び方が異なるだけ。

 では、なぜ今は冒険者と呼ばれているのか。実のところ、その理由は、ただひとつ。


 かつて、とある少年少女達が、探索者のことを冒険者と呼び始めたからである。


「流石はオリハルコン級ね……未開領域のこんなに深いところで、こんなに美味しい料理を食べられるなんて思わなかった……」

「深智などと大仰な名で呼ばれておきながら、料理のひとつも作れないようではな。精霊神さま、ご満足いただけましたか?」

「うん!美味しかった〜♡」


 深智のエルス、仕事のできるエルフである。

 実際のところ、冒険者として活動する者には料理上手が多い。理由としては単純で、短期滞在ならばともかく、中長期の探索期間を支えるのは安定した食事であるから。

 その場の環境から得られる食材知識の有無、未知の食材の安全性検証など、未開の地だからこそ知るべきこと、やるべきことであり、のちのちの冒険者活動――多種多様多岐に渡る未知なる知識の解明につながる。

 オリハルコン級冒険者ともなれば、一流の素材研究家であり、一流の料理人であっても、何ら不思議のないこと。


 冒険者、くあるべしである。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?