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07


 当該惑星の主要な人型生物


 ヒト

 獣人

 魚人

 翼人

 竜人

 龍人

 魔人

 鬼人

 亜人


 ヒトを除いた種族全てが、ヒトとの混血



「――さて、お目当ての奴ね」

「流石におっきいね♪」


 ミーティアル帝国南方、ファルデア王国との国境地域であるそこから北に、帝国内では名の知れた未開領域――ベルヌス湿地帯が広がる。

 約三百年ほど前までそこは平原――周辺の河川を通って移動してきた際に、半ば無理やり幾つもの小さな分流を作り出したことで、結果として湿地帯を作り上げた、とある魔獣。


 ヒュドラ――城壁並みの巨体と複数の首を持つ多頭龍と呼ばれる魔獣。魔物の分類は龍種。長い首の印象から水蛇、サーペントと呼ばれる魔物と誤解されやすいが、れっきとした龍――ドラゴンの一種である。


 ヒュドラという種の脅威度は災厄級星四。複数の首と巨体による総合的に高い攻撃力、再生能力を根拠とした耐久力の高さが、種そのものの脅威度の高さに繋がる。

 そして、ベルヌス湿地帯の主たるヒュドラ、その脅威度は破滅級――星三。

 破滅級に認定されたほぼ全ての魔物がそうであるように、ソーマ達の視界に移る巨大な魔物にもまた、それが――名前が与えられ、名前を与えられた魔物の総称をネームド、もしくは、ネームドモンスターと呼ぶ。


 破滅級星三魔龍ベルヌス。ベルヌス湿地帯に生息するネームドモンスターの名である。


 ちなみに、未開領域にネームドの名を冠するのもまた、通例である。



「――あはははは!たーのしい♪」

「ウオオオオオオッ!!」


 舞い踊るは、精霊神と双翼。

 放たれたる刃の閃きは幾百幾千。

 されど、多頭龍はいまだ滅びず。


 アダマンタイト級傭兵、エレノア=ヴァルスター、その異名は――双翼。ミスリル級傭兵時代に災厄級の魔物であるサイクロプスと呼ばれる巨人型の魔物を打倒せしめた際に、既に握られていた一対の魔導大刀こそがその由来。

 魔導大双刀レギンヴォルス――双翼と謳われしエレノア=ヴァルスターの戦闘スタイルを支える、珠玉の二振りである。

 魔導武具としての機能はシンプル。周囲の魔素を推進力とし、使い手の機動力とレギンヴォルス自体の切断力をひたすらに高めることで、高速近接戦闘を可能にする。

 レギンヴォルス起動の際、排出された魔素の残滓によって、刀身が鳥の翼のように見えることから、双翼の異名が広まった。


「――ふっ!!」


 一息に放たれる斬線は十。レギンヴォルスの凄まじい切断力は、ベルヌスの首一本を相応の数に分割する。しかし――


(――ったく、キリがない!)


 切断したはずの首が地面に落ちることなく宙に留まり、瞬く間に元に戻る。ヒュドラ自慢の再生能力――でも、こうはならない。

 ヒュドラの変異種だからこそ成立する、あまりに異常な――復元能力と呼んで差し支えない――再生能力こそが、ベルヌスという個体の強さを支えている。

 無論、異常な再生能力だけがベルヌスの脅威度を高める要因では無い。


 三十二の首持つ龍、それがベルヌス。


 通常のヒュドラの首の本数が九本前後、二桁の個体も珍しいのだから、ベルヌスという個体がどれほど異常なのかがよくわかる。

 さらに、ヒュドラはれっきとした龍種、ドラゴンである以上、ベルヌスもアレを使う。

 自身の魔力を用いて、または、周囲の魔素を取り込み、個体固有の特性を備えた魔力性のエネルギー波を咆哮とともに放つ、竜や龍にとって常套的な攻撃方法――ドラゴンブレス。

 三二の首が可能とする多角的な物理攻撃による間断なき猛攻は相手の動きを縛り、容易な反撃を許さず、わずかな隙があれば、堤防を決壊させる濁流の如き怒涛の攻めに繋げる。

 ヒュドラ種特有の猛毒と水の魔力性質を反映したベルヌスのドラゴンブレスは、世界最硬の金属と呼ばれるアダマンタイトでコーティングされた城壁ですら腐食しては完全に貫く――それが三二。

 圧倒的な手数と威力の攻め手、不死身なのかと勘違いさせるほどの異常な耐久力。


 まさに、破滅級と呼ぶに足る怪物である。


「――そろそろ限界かな?」

「はぁはぁ、クソッ!!」


 災厄級の魔物、その戦力はおおよそ、人族領域内の小国の軍事力と同等であると言われる。

 では、破滅級の魔物はどの程度の戦力か。

 破滅級星一の魔物が、人族領域内の大国、その軍事力と同等と言われており、人族領域の大国と小国の戦力差は、ばらつきはあれど、五倍から十倍と見積もるのがこの世界での常識。

 要約すると、破滅級と災厄級との間には、五倍から十倍ほどの戦力差があるということ。

 そして、アダマンタイト級傭兵は、災厄級の魔物を単独で討てることが必須であり基準。ダスクード大陸全土に、破滅級星一を単独で討てる傭兵は、現在、存在していない。

 つまり、今のエレノア=ヴァルスターに、ベルヌスを討てるだけの実力は無いということ。


 では何故、ベルヌスとの戦いを選んだのか。


 エレノア=ヴァルスターは、腕試し。現在の自分がどの程度戦えるか、それを確かめる機会は、アダマンタイト級傭兵ともなると、多いようで少ない。無論、エレノアだけで倒しきれるならばそれが理想だが、破滅級の魔物がそれほど甘い相手ではないことを、エレノアはよく知っている。課題も見えた良き機会だったと締めくくり、エレノアは退く。

 さて、精霊神ソーマは、何故、ベルヌスとの戦いを選んだか。その答えは――


「――ったく、あたしもまだまだだな」

「いやいや、中々良かったよ♪」


 神殺しの聖剣キノエーダを携えたソーマが、いつもと変わらぬ飄々ひょうひょうとした佇まいで、ベルヌスの前に立つ。


「いやー、そろそろ選手交代の時間だね♪ 久々に楽しませてもらうよ、ヒュドラくん♡」


 最高神の一たる精霊神ソーマ。もし、かの存在を、あえて魔物の等級表に照らし合わせるとしたらどうなるか。


 ――正体不明アンノウン




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