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剣聖、剣魔、剣鬼――三次元世界内において、刀剣を用いた戦闘技術、戦闘能力が一定の
称号付与によって魂の強度が向上したことに伴い、肉体能力に上昇補正。
魂に刻まれた
剣王――剣聖、剣魔、剣鬼、いずれかの称号取得が前提。剣聖、剣魔、剣鬼称号取得者五名に勝利(殺害含む)、もしくは、剣王以上の称号取得者一名に勝利(殺害含む)することで、世界が承認、魂に称号が付与される。
更なる称号付与によって、魂の強度が大幅向上、それに伴い、肉体能力に大幅な上昇補正。
剣神――剣王の称号取得が前提。剣王五名に勝利(殺害含む)、もしくは、剣神の称号取得者一名に勝利(殺害含む)、もしくは、世界に敵対する上位存在一体を滅ぼすことで、世界が承認、魂に称号が付与される。
更なる称号付与によって、魂の強度が超向上、それに伴い、肉体能力に超上昇補正。
剣神殺し――三次元世界内に一名だけ存在する唯一無二。剣の極致にして頂天。
三次元世界内全ての剣神を殺害せずに勝利したことで、世界が承認、新たに称号が創られた。
称号付与による効果は【※警告※ 現在の貴方の権限では、レベル5以上の情報閲覧は許可されておりません】。
なお、称号付与
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視界を埋め尽くすのは、黒光りする三十二の肉塊。一本一本が巨木の如き威容のそれらが群れとなり、銀髪の少年を覆うように囲んでは一斉に襲いかかり――その全てが散らされる、一瞬のうちに、音も無く。
「――いいねいいね、斬り甲斐があるよ♡」
三十二の首を、両断どころか細切れにされたベルヌスは一瞬の硬直後、すぐさまその姿を元に戻し、怒りの咆哮をあげ、再び襲いかかる。
先ほど学んだのだろう、一斉攻撃ではなく連続攻撃――致命的な一撃を狙いつつ、途切れることなき連撃によって体勢を崩し、決定的な隙を作る――そういった攻め方に切り替える。
しかし――
「あははは!楽しいね、ヒュドラくん♡」
攻め手の全てを潰される、いとも容易く。
前後左右上下、縦横無尽かつ不規則に描かれる軌道は、ある地点に到達した瞬間――精霊神ソーマの木の枝の間合いに入った瞬間、瞬く間に途絶える。
実際のところ、ベルヌスによる変幻自在の連撃、その圧、その威力は凄まじく、ベルヌスと同じ破滅級星三の魔物の中で比較すれば間違いなく最上位、総合的な破壊力ならば破滅級星四の魔物と遜色がない。
例えば、エレノア=ヴァルスターが、ベルヌスの連撃に襲われたならば、回避に精一杯で反撃することはできない。アダマンタイト級傭兵屈指の機動力を有するエレノアですら、回避することを強いられてしまう。
ベルヌスの連撃とは、それほどの圧、それほどの猛攻、それほどまでに隙の無い攻め手だということ。
つまりは、運が悪かった。いや、逆に、運が良かったのかもしれない。
「ふふん♪ さあさあヒュドラくん、キミの魂の輝き、ボクに見せてごらん♡」
全身全霊全力で向かってもなお勝てぬ、それほどの強敵と闘えるのは、弱者との戯れに飽いた強者にとっての喜び。
自らの眼前に悠然と佇む、死地となってくれた小さくも恐ろしい存在に、数百年ぶりに訪れた絶対的強者との戦いに、歴戦の猛者たる多頭龍の魂がこの上なく昂る。
体内の魔力と体外の魔素、二つの魔を束ねて混ぜることで、暴威の光を
ベルヌスの目に映ったのは、精霊神ソーマの困った表情。それを見たベルヌスはそのことを思い出し、顎門に宿らせた紫紺の火を消した。
「……すまないね、ヒュドラくん。どうやら気を遣わせたみたいだ――」
破滅級星三魔龍ベルヌス、かの多頭龍のドラゴンブレス三十二門一斉発射ともなれば、周囲への被害は甚大。もし発射すれば、精霊神ソーマはともかく、それ以外の生き物が生存することは難しい。人族ならばなおさらだ。
ベルヌスは、先ほど強者たる己に立ち向かってきた人族――エレノア=ヴァルスターが、ドラゴンブレスの余波によって死なぬよう気を遣ったのである。
それは、ベルヌスという多頭龍が、戦う者としての矜持を有する、歴戦の戦士であることを意味している。
三十二の顎門より放たれるは自らを鼓舞する咆哮、その姿は意気軒昂そのもの。
絶対的強者に、己の力と威を示す。
その者は、ただそれだけを思っていた。
誇り高き多頭龍は全身全霊全力を以て、精霊神に最後の戦いを挑んだ。
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「――考えたわね、エルスさん」
「精霊神さまの願いに応えたまでである」
「もふもふ〜♪」
「は、はい……んっ!?」
「あんたは、ほどほどにしなさいよ!」
獣人達の集落に残っていたボロボロの荷車三台を、仕事のできるどスケベエルフが完璧な補修&可能な限りの改修を施し、それらを引いていく獣人達に手を振るソーマ、エレノア、エルス、そして――
「本当によかったの?今からでもみんなと一緒に行ってもいいのよ?」
「えー!ボク、頑張ったよー?」
「黙りなさい!ずっと一緒に暮らしてた家族と離れるなんて――」
「い、いえ、大丈夫です……」
「本当に?無理しなくても――」
「ほ、本当です……精霊神さまには、大変お世話になりました……だから――」
「いや、だからって、流石に――」
狐耳の金髪少女レナ。今後、彼女がソーマ達に同行することになる、その理由とは――
「――報酬が専属メイドってホント……」
さて、古来より、神への捧げ物はうら若き少女と相場が決まっている。そして、獣人達の集落の人々が精霊神ソーマに払える報酬は、レナ以外、他にはなかった。
精霊神ソーマは、無報酬では働
それ故、レナが報酬になる必要があった。つまりは、ただそれだけの話ということである。
ただし、補足するならば、集落に残っていた女子供は、そもそもレナだけ。だからこそ、集落のまとめ役をしていた老獣人も、まだ先のあるレナの身元を、獣人と呼ばれている者達が世界で最も信頼している精霊神に引き取ってもらえるのは、まさに僥倖ともいうべき幸運なことであったと感謝していたのは余談である。
かくして精霊神さま御一行は先に進む。狐耳の可愛らしい専属メイド、そして、精霊神の肩の上で静かに眠っている――三ツ首の小さな黒龍を、新たに連れて。