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精霊化――特定の魂に干渉し、生物としての制約を破棄、精霊としての存在を確立する秘法。大精霊以上の上位存在が行使可能。
精霊――魔素と共に世界を
大精霊――世界より称号を与えられた精霊、もしくは、精霊となった称号付与者が、精霊神の承認を得ることで世界に認められた存在。
他の精霊と異なり、活動体と呼ばれる現世での身体が、精霊神より授与される。
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「――レナおねえちゃん、怖いよぉ……」
「だ、大丈夫、お姉ちゃんがいるよ……」
そこは、森深い
いかにもな盗賊姿の男たちが、二人を乱暴に連行し、連れていかれた先は、屋敷の地下牢。そこには、二人のような獣人の少年少女だけではなく、耳の長い者たち――エルフの少年少女も多数囚われていた。
二人もまた囚われの身となってしまう、否、目論見通り、囚われの身になる。
そして、狐耳の銀髪少年が、不敵に笑う。
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ミーティアル帝国南方の国境地帯には、二名の帝国貴族の領地が東西に分かれて存在する。
セルゲイ=ガーデス侯爵――国境地帯東部の都市バルシアを領都とし、周辺地域を治める。
ヨハン=アルバイン侯爵――国境地帯西部の都市アルシアを領都とし、周辺地域を治める。
また、ミーティアル帝国の国境地帯における対ファルデア王国の軍事方針は、二侯一軍。
二つの侯爵領兵による合同軍を興し、ファルデア王国との国境地域での争いに専念させるのが、ファルデア王国に対する帝国の軍事方針である。
なお、同じ侯爵という立場ではあるものの、帝国内における発言力、影響力は、セルゲイ=ガーデス侯爵に軍配が上がる。
その理由は、セルゲイ=ガーデス侯爵が、ミーティアル帝国第六皇子の後見人となっていることにある。
第六皇子の名は、エレン=ミーティアル。
エレノア=ヴァルスターの実弟である。
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ガーデス侯爵領都バルシア。十年前の政変以降、政治方針が軍備増強に傾いたことで、富裕層と貧困層との格差が異常なまでに広がっており、本来であれば正常な都市運営など望めない、そのような都市である。
だが、今もなお、バルシアという都市は、なぜか存続している。
そこにはカラクリがある。
「――何者だ?」
「やあやあ、はじめまして♪」
侯爵領都バルシア中央部には、
そして、その建造物の地下深くにて、銀髪の美少年と鎖に繋がれた精強な老人が出会う。
「魔物……には、見えんな」
「あはは!ボクみたいに可愛い淫魔がいたら、世界中の女の子たちが困っちゃうね♪」
「ふっ……もしや、
「おや、珍しい――」
「誰も彼もが精霊嫌いというわけではございませんので――」
かつての東征――ミーティアル帝国による大陸東部の大森林地帯への侵略失敗以降、帝国上層部による精霊の民を嫌厭する風潮は、強く根深く現代まで残り、その結果、帝国の精霊嫌いは有名な話となっている。
「キミのことを救ってほしいってお願いされてね、大人しく救われてほしいんだけど――」
「――今は、お断りいたします」
「……今は?」
「はい……大精霊さま、わたくしより、お願い申し上げてもよろしいでしょうか?」
「んー……いいよ!聞いてあげる♪」
「慈悲深きお言葉、感謝いたします……わたくしの願いは――」
老人の願い、それは、銀髪の少年が老人の元にやってきた理由にも繋がるものであり、銀髪の少年に断る理由はなかった。
残る問題は、銀髪の少年への報酬のみ。
「――存じております。わたくしが差し出せるものはただ一つ。御身にこの身を捧げ、永遠の従僕となることです」
「なるほどなるほど……キミ、面白いね――」
本来ならば、銀髪の少年が承諾するわけもない、その報酬。老い先短い者が、上位存在への捧げ物として不適当であるのは、この世界においては常識。
だからこそ――
「――いいよ!キミの願い、聞き届けた♪」
銀髪の少年が、老人の願いを聞き届けることなど、本来ならばあり得ないこと。あり得ないことが起きる時、そこに理由が存在するのが道理。ならば、その理由とは何か。
この老人の正体、それこそが理由である。
かつてミーティアル帝国を揺るがした政争。皇位継承者候補五名の殺害を含めた大規模な政治闘争において、許されざる大罪を犯したとされた者がいた。
第二皇子第三皇子殺害ならびに第四皇妃、第五皇女の国外逃亡
本来ならば極刑となるほどの罪だが、その者の肩書き、そして、その肩書きにふさわしいだけの力を有していることが、その者が現在まで存命している理由。
今は亡きバルファトス侯爵の懐剣と呼ばれし者、バルシアの剣と呼ばれし者、帝国史上最高の将軍にして――騎士の中の騎士、と、今なお謳われし者。
その者の名は、レヴァス。世界より『剣聖』の称号を授かりし、世界が認める武人である。