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奴隷――人型生物そのものに生物的資源としての価値をもたせ、互いの同意のもと売買される者の総称。一般奴隷、戦闘奴隷、犯罪奴隷の三種に大別。
互いの同意があれば合法、同意がなければ違法であると、商工ギルドによって定められているため、違法奴隷を扱う商人は、精霊神の粛清対象である。
戦闘奴隷――傭兵や冒険者のように一定の戦闘能力や技能を持つ者が、トラブルやアクシデントにより奴隷契約を交わした者。
兵役や未開領域への同行など、戦闘能力などを求められることへの用途がほとんどである。
犯罪奴隷――奴隷契約を交わした犯罪者。奴隷契約における制約が最も重く、契約不履行の際の罰則が最も厳しい。
重労働に従事させられることが多い
一般奴隷――上記二種に該当しない奴隷契約を交わした者。用途は多岐にわたり、さまざまな用いられ方をするのが特徴。
全ての奴隷契約に共通するのは、契約を拒み、死を選択することが自由であること。
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ガーデス侯爵領都バルシア貴族街、最奥に位置する領主館は現在、異常な慌ただしさに追われると同時に、異様な雰囲気が漂っていた。
領主館に勤めていた者の半数以上が自宅謹慎を言い渡され、その代わりとばかりに、普段は宿舎に待機している領兵やプラチナ級を含めた傭兵たちがその場に集められていた。
それはまるで、これから起こる何かに備えているかのようで――
「――ごめんください」
そこに現れたのは、長耳薄緑髪の少女。そのかたわらには、見目麗しい銀髪金眼の少年。
「商工ギルドより参りました――」
粛清の時、来たる。
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「あ、めんどくさいから、キミたち潰すね♡」
開口一番、先制攻撃、致命的。端的に言い表すならば、これらが適当な表現となるだろう。
銀髪金眼の少年――精霊神ソーマは、とびっきりの笑顔でこの上無き理不尽を叩きつけた。
ちなみに、隣に座る長耳薄緑髪の少女――シエルは、笑いを堪えるので精一杯だった。
「な、何よ、このガキ、意味わかんないこと言ってんじゃ――」
「――あら?それは宣戦布告ですか?」
「は?アンタも何よ!たかがエルフが、調子にのってんじゃないわよ!」
「…………」
ガーデス侯爵領都バルシア領主館、貴賓室にて、二組の男女が向かい合っていた。
精霊神ソーマ&シエル=ド=アルベルンに相対するは、口を閉じている壮年の白髪男性と横柄な態度を取る黒髪の少女。
前者は、ここバルシアの領主であるセルゲイ=ガーデス侯爵、その人。
そして、後者は、セルゲイ=ガーデスの妻であるガーデス侯爵夫人。名を、キリエ=ガーデス、旧姓――フジタ。
この世界では珍しい特徴的な黒髪と面立ち、そして、エルフに対する敬意の無さは、彼女が何者かを示唆するのに十分な証左になる。
キリエ=ガーデスは、異世界人である、と。
「――まずは、こちらをご覧ください」
シエルは、二つの鉄の塊をテーブルの上に置き、起動、宙空に浮かぶ窓のようなそれに、動く絵が浮かび、音が鳴る。
「な、なによ、これ……」
「こちら、記録保存の魔導具となります」
二つの鉄の塊――記録保存の魔導具は、一定範囲の風景と音を記録する、上位冒険者御用達の魔導具である。
片方に映っていたのは、森の屋敷の中にいた奴隷たちの姿と、屋敷の中に残されていたガーデス侯爵の家紋入りの品々。
もう片方に映っていたのは、森の屋敷から出てきた馬車がバルシア貴族街の、ガーデス侯爵の家紋の旗を掲げている商会の裏手に停まり、そこから執事服姿の男があらわれては再び馬車を走らせ、貴族街最奥の領主館内に入っていく――その全ての場面が収められていた。
「こ、これが何だって言うのよ!」
「商工ギルドは、あなた方が違法な奴隷売買取引を行なっていたと、総合的に判断いたしまして、あなた方自身を含め、関与、加担した方全てを――」
商工ギルドは許さない。
「精霊神の名の下に、犯罪者と認定します」
「はあ!?ふざけたこと、言ってんじゃ――」
他者を食い物にする強者気取りのクズを、絶対に許しはしない、逃しもしない。
「――続きまして、あなた方には、奴隷契約を交わす機会をお与えします」
「なっ!はぁ?なんで、私が――」
「こちらを拒否する場合、即時処刑が執行されますので、十分な検討を――」
「…………わよ」
「……はい?」
「この私を舐めてんじゃないわよ、ただの
「――かはっ!?」
カッと目を見開いたキリエが、シエルに向かって両手をかざす。すると、シエルの目から光が失われていき、ガクンと首が降りる。
「はっ、これでアンタも私の――」
「――操り人形、かな?」
「――っ!?」
精霊神ソーマが指を鳴らす。シエルの目に光が戻り、ハッと目を覚ます。
「なんで!どうして私の
「んー?なんでだと思う?」
「あ、あんた、なんなのよ……」
「え、精霊神だよ♪」
「……は?」
「だから、キミたち異世界人の
それは、後付けされた設定。
本来の役目とは別に、追加された役割。
「――ボクが
精霊神ソーマからは逃げられない。