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 魔導武具――金属と生物を素材として作成される感応兵装の一種。当該惑星での通称。

 魔素技術を限定的に再現することが可能。


 古代武具――当該世界の時間軸から換算し、約一〇万年前、当該惑星の地表を包括的支配下に置いていた文明が作り出した感応兵装。


 感応兵装――【※警告※ 現在の貴方の権限では、レベル5以上の情報閲覧は許可されておりません】。


 古代文明――【※警告※ 現在の貴方の権限では、レベル5以上の情報閲覧は許可されておりません】。


 人族――【※警告※ 現在の貴方の権限では、レベル5以上の情報閲覧は許可されておりません】。


【※通知※ レベル5以上の情報閲覧をご希望される場合、システム管理者にご相談ください。管理者の連絡先は――】



 世界から剣聖と認められた者と認められていない者との違いとは何か――剣聖レヴァスが、このような問いを投げかけられたなら、きっとこのように答えるだろう。


 剣という道具の本質、その理解の差、と。



「――ふっ!!」

「グルァァァァ!!」


 もし、あなたの視界がヒュドラの頭部で埋め尽くされたらどのように対応しますか――剣聖レヴァスの答えは――全てを斬り分ける。

 大質量かつ鉄の推定百倍以上の硬さの肉の塊が唸りを上げて襲いかかって来た場合の対処方法としては、あまりにも不適切、再現できる者が極めて限られている回答であり、お世辞にも解答とは言い難い。

 だが例えば、この質問を、あの精霊神ソーマに問うたならば、きっと同じような答えが返ってくる、いや、もしかすると更に酷すぎる回答を口にするかもしれない。


 剣聖に限らず、世界から認められた者とは、大なり小なり、世の常識から驚くほどかけ離れた言動をするものである。


 さて、自分の身体よりも遥かに太くて堅そうな肉の塊が頭上と足下から襲いかかってきた時、あなたならどうしますか――剣聖レヴァスの答えは――即座に前方に跳び、身体を錐揉み回転させながら魔龍の首をバラバラにした後、背後へと回っては迎撃態勢を執る。そこに油断も隙も慢心も無く、過大評価も過小評価も、レヴァスはしない。

 修行のために、大陸中の武人と闘い歩いていた若かりし頃のレヴァスが、初めて敗北した闘いがあった。

 その武人の強さ、武人が教え伝えていた武術に感銘を受け、教えを乞い、その結果、世界より剣聖の称号を授かるほどまでに成長を遂げたレヴァスは、その言葉を、その教えを、一瞬たりとも忘れたことはない。


 ――我身一刃がしんいちじんの境地にて軌跡を描く


 力ある言葉は、魂に刻まれる。


「考えてはならぬ――」


 感じることすら不要

 一振りの刃を模すだけでも足らぬ

 その命以って、その身、劔と化すことすら、

 果てなき道の過程と心得よ


「――汝、万象斬り裂く一筋の軌跡たれ」


 魂に刻まれる資格有る言葉は鍵となる。

 称号授かりし者には門扉が建てられる。

 門扉と鍵揃えし者だけが資格を有する。


 それは、世界より称号を授かった者だけが成し得る、称号に紐付いた固有の魔法。

 原初の剣聖が確立、命名した魔法を発動する為の言葉を唱えたレヴァスが、名を告げる。


 それは、過去を超えるための力。

 それは、未来を越えるための力。

 生物の限界を突破するための力。


 剣聖固有魔法――


「――『タメツルギ』」


 超越者、あらわる。



 遠目から見ていたエレノアが気づく。剣聖レヴァスから感じられる圧力が突如として変化し、その佇まい、その雰囲気が――あの精霊神に酷似していることを。同時に、忘れてしまいそうになっていた、レヴァスが、余命幾許もない老人であることを。

 見た目は、何も変わっていない。ただ、そこに佇み、先程と同じように魔龍ベルヌスと対峙している、ただそれだけに見える。

 だが違う、違うのだ。その場にいた全ての者が、レヴァスから目を離せなくなっていた。先程とは比べ物にならない存在感のような何かが、ある種の吸引力となって、剣聖レヴァスという存在に惹きつけられていたのだ。

 この世界における上位存在と呼ばれる者たちが、その存在感のような何かのことを明確に認めたことで概念化、このように名付ける。


 ――存在力、と。


 レヴァスが動く。今の今まで受けに回っていたレヴァスによる踏み込み――ほんの一瞬でベルヌスの胴体間近に現れたかと思えば、その後を追うように、レヴァスに近いベルヌスの首がバラバラになる。それは、移動と並行して振るわれた千を超える斬撃の結果。

 残ったベルヌスの首、約二〇がレヴァスに向かうのと同じタイミングで、レヴァスの剣先が胴体に添えられ、闘技場の床に亀裂が走り――九つのあなが開く。

 多頭龍の巨体を貫通する突きが放たれたのだ、瞬きの間に九つも、人族の胴体ほどの太さの孔が開かれたのだ。

 レヴァスから放たれた刺突の凄まじさに、さすがのベルヌスも苦痛に悶える。しかも、すぐに回復したのは、何故か先に切断された首だけ。九つの孔は、すぐには塞がらない。

 それは、ベルヌスの種族でもあるヒュドラを含めた、高い再生能力を有した全ての生物に適用される明確な弱点――体組織を抉り取られたのち消失したことで、体組織を再生するのに相応の時間とエネルギーの消費が必要になる。

 切断された首がすぐに元に戻るのは、切断面を接合するだけで済むから。少し深く斬られたり穴を開けられようとも、それは同じこと。

 切り離した部位を隔離する、それが、ヒュドラのような高い再生能力持ちの生物を討つ方法のひとつである。

 そして、この刺突こそが、剣聖に認められた者と認められない者との差が何かを、より顕著に示している。


 剣という道具の本質とは何か――剣聖レヴァスが、このような問いを投げかけられたなら、きっとこのように答えるだろう。


 断ち、穿うがち、崩すもの――空間を、と。

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