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 魔族領域――ダスクード大陸北部に存在する巨大な多種族領域の通称。魔族と呼ばれる者たちが暮らすことから名付けられる。


 魔族――ダスクード大陸北部において、魔人を中心として、亜人や獣人などとの他種族と共に国家を建てた頃より、一部の人族国家から呼称されたことで定着した賤称せんしょう。精霊の民などは、この呼び方を忌避している。

 魔族を率いるものは、魔王である。


 魔人――ヒト(現在のエルフ)の中から時折生まれる、魔素との親和性が高すぎるあまり、精霊との結びつきが弱くなった者同士が、森を離れ、他種族と暮らすことで世界に血が広まった結果、世界から認められた種族。広義の意味ではエルフである。

 魔人の特徴は、エルフ以上の魔力の高さと、魔素との親和性が高くなったことにより、肌が若干黒くなること。一部の人族から、ダークエルフとの蔑称べっしょうで呼ばれることもある。精霊の民は、その呼び方を忌避する。


 魔王――ダスクード大陸における魔王とは、初代魔王の一族から選出された者を指す。

 ただし、本来、魔王とは【※警告※ 現在の貴方の権限では、レベル5以上の情報閲覧は許可されておりません】。



 ガーデス侯爵領北東の森に、静養を理由に、とある皇族が暮らしているというのは、帝国では有名な話。


「――貴方が顔を見せるのは珍しいですね、ガーデス卿……そちらの方々は?」

 鮮やかな桃色が周りの緑によく映える、そんな髪色の少年が、ガーデス卿――セルゲイ=ガーデス侯爵の訪れを歓迎する。

 そのセルゲイ=ガーデス侯爵は、自分以外の三名――銀髪金眼の少年、桃色のポニーテールを弾ませる女性、そして、薄紅色の長い髪を腰上辺りで括り纏める青年――を連れて、その少年のもとを訪れていた。


「……はじめまして、御客人の皆さま。ようこそいらっしゃいませ。エレン=ミーティアルと申します――」


 ミーティアル帝国第六皇子、その人である。



「――ふふっ、今日は本当に驚かされる日ですね……会えて嬉しいです、姉上……」

「うん……遅くなってすまない……」


 桃色ポニーテールの女性――エレノア=ヴァルスターが、実の弟であるエレン=ミーティアルとの再会を果たす。

 そして、更に――


「それに……姉上や母上を逃してくれた大恩人で、僕のせいで罪を背負うことになったことは存じていたのですが……まさか――」


 エレンの視線は、薄紅色の長髪の青年に向く。その青年は、エレンからの視線に微笑む。


「帝国の英雄、剣聖レヴァスが、僕や姉上の曽祖父そうそふにあたるだなんて……」


 薄紅色の長髪の青年――大精霊となったことで全盛期の若かりし姿を活動体で再現した――剣聖レヴァスは、エレノアやエレンの曽祖父、ひいおじいちゃんなのである。

 そもそもの話、エレノア=ヴァルスターが、何故、史上最年少でアダマンタイト級傭兵となったのか。当然だが、本人の修練鍛錬の賜物、相応の努力は大前提である。だがそれでも、一の努力の結果に、個人差が生まれるのも事実。

 この世界では、称号付与者の血を引く者は、称号に基づく素養に成長補正がかかる。剣聖レヴァスの血を引くエレノアやエレンであれば、剣に関する身体能力の成長や技能習得に要する時間に上昇補正がかかる。

 つまり、剣聖の血族、剣聖のひ孫であることが、エレノアが最年少アダマンタイト級傭兵になれた要因のひとつであるのは確かなのである。


「それに何より……お初にお目にかかります、精霊神さま……」

「ふえ?」


 銀髪金眼の少年――精霊神ソーマに対し、片膝をつき、頭を下げるエレンは続ける。


「僕如きが、帝国を代表して、などと大それたことは言えません。ですが、全ての皇族が人族以外の種族の方々に排他的ではないということ、精霊神さまや精霊の民の皆さまに敬意を払っていること、お耳に残していただければ幸いです――」

「うん、わかった〜♪」

「……えっ、と――」

「大丈夫、精霊神さまは寛大なのよ、ねえ?」

「うんうん、素直な子、ボク大好き〜♡」

「そ、そうなんです……か?」


 エレン=ミーティアルも皇族の端くれ、皇宮内や市井の情報をある程度は把握している。

 帝国内外の情報を集め、もし自分が民を導く立場なら、と、想像して想定して発案したことを書にしたためることが、物心ついてから人里離れた場所で過ごしてきた彼のライフワーク。

 そんな彼だからこそ、精霊神が、ミーティアル帝国に対して悪い印象を抱いていると考えていた。もし、拝謁の許しをいただけた際には、誠心誠意、罪に向き合う姿勢を見せなければいけない、と、真摯に考えていたからこそ、精霊神ソーマは許す、赦す。

 先の言葉通り、素直に謝れる子が、精霊神ソーマは好きなのである。

 そんなやり取りを、神妙な面持ちで眺める男がいた。ぷるぷる身体を震わせているその男は、突然動き出し、エレンの前へ。

 そして――


「まことに、申し訳ありません――」


 それはそれは見事な土下座を、その男は披露する。突然のことに、その場にいた者が驚き、謝罪されたエレンが声をかける。


「ど、どうしたのだ、ガーデス卿――」

「自分が……自分が愚かだったばっかりに……取り返しがつかないことを――」


 男は――セルゲイ=ガーデスは泣いていた。取り返しがつかないこと、戻したくとも戻すことが叶わないことを、自分が仕出かしたことを、心の底から悔いていた。

 今の彼は、異世界人であるアカネに操られていた彼ではない。

 本来の彼は、尽忠報国の士――ミーティアル帝国貴族としての誇りを胸に、皇帝陛下に、帝国に忠義を尽くし、帝国、そして、帝国に暮らす民のために本当に死ねる者。

 かつてダスクード大陸南部を平定したミーティアル帝国、その原動力となった一部の貴族――戦闘貴族の名で恐れられていた者たち特有の精神性を有する――帝国魂を真に体現する、本物の帝国貴族、そのひとり。


 それが、セルゲイ=ガーデスなのである。



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