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第2話 : 秘密の夜

夜の王宮の秘密


夜の王宮は、華やかな舞踏会の喧騒に包まれていた。シャンデリアの光がきらめき、貴族たちの笑い声と楽団の調べが響き合う中、誰もがこの豪奢な夜を謳歌していた。しかし、その華やぎの裏で、第一王子アレクサンドルとその婚約者フレデリカには、誰にも知られぬ秘密があった。

二人は婚約中でありながら、まるで長年連れ添った夫婦のように睦まじく、夜遅くまで互いの部屋を行き来することも珍しくなかった。

「フレデリカ、私の部屋に…」 アレクサンドルが囁く声は、甘く、どこか切なげだった。金髪に縁取られた彼の端正な顔は、シャンデリアの光を受けてなお魅力的だった。

「殿下、ですが、まだ舞踏会は続いております。まだ、大勢の方が会場に…」 フレデリカは少し困ったように微笑むが、その頬はほのかに赤らんでいる。彼女のドレスは深い藍色で、月光のような銀の刺繍が施され、彼女の可憐さを一層引き立てていた。

「そんなこと、気にならない…良いだろう?」 アレクサンドルの声には、どこか強引さが滲む。彼の青い瞳は、まるでフレデリカを捕らえて離さないかのようだった。

「……はい」 フレデリカは小さく頷き、彼の誘いに従った。彼女の心臓は高鳴り、舞踏会の喧騒が遠ざかるのを感じていた。




 秘密の部屋





アレクサンドルの寝室に足を踏み入れたフレデリカは、扉が閉まる音に一瞬振り返った。重厚なオーク材の扉が静かに閉じられ、舞踏会の喧騒が完全に遮断された瞬間、部屋はまるで別世界のように静寂に包まれた。室内は薄暗く、大きな窓から差し込む月光だけが、絨毯に複雑な模様を投じていた。窓辺には、銀色の光がカーテンの裾を照らし、部屋の豪華な装飾を引き立てていた。天蓋付きのベッドには深紅のベルベットがかけられ、壁には先祖の肖像画が厳かに並び、アレクサンドルの王家としての威厳を静かに物語っていた。

フレデリカのドレスが床を滑る音が、静かな部屋に微かに響く。彼女は一瞬立ち止まり、月光に照らされたアレクサンドルの姿を見つめた。彼の背筋はまっすぐで、王子らしい堂々とした佇まいだったが、その瞳にはいつもと異なる熱が宿っていた。フレデリカの胸は高鳴り、好奇心と僅かな緊張が交錯した。

すると、アレクサンドルが部屋の隅にある古い木製のキャビネットに近づき、何かゴソゴソと物音を立て始めた。彼の手には、黒い革のハンドルがついた麻のロープが握られていた。そのロープは、月光の下で不思議な光沢を放ち、フレデリカの視線を釘付けにした。アレクサンドルがゆっくりと振り返り、彼女に近づいてくる。その足音は、絨毯の上でほとんど聞こえないほど軽やかだったが、フレデリカの心には重く響いた。

「で、殿下、そ、それは…?」 フレデリカの声には、驚きと好奇心が混じる。彼女の目はロープに注がれ、わずかに眉が上がっていた。心の奥では、何か新しい展開を予感し、期待と不安が交錯していた。彼女の指先は無意識にドレスの裾を握り、軽く震えていた。

「フレデリカ、構わないだろう。もう、我慢できないんだ」 アレクサンドルの声は低く、抑えきれない情熱が滲んでいた。彼の目は真剣そのもので、まるでフレデリカの心の奥底を見透かすようだった。彼は一歩近づき、彼女との距離を縮めた。その動きは、まるで獲物を追い詰める獣のようにしなやかで、しかしどこか優雅だった。

「お、お許しください、会場にはまだ大勢のお客様が…」 フレデリカは一歩後ずさり、背後の壁に軽く触れた。彼女の声には戸惑いが含まれていたが、唇の端には微かな笑みが浮かんでいた。その笑みは、まるでアレクサンドルの意図を半ば見抜いているかのようだった。彼女の頬は月光に照らされ、ほのかに赤く染まっていた。

「気にするな。どれだけ大きな声を出そうと、会場まで聞こえないさ」 アレクサンドルは不敵に笑い、口元に自信に満ちた笑みを浮かべた。彼の手の中でロープが軽く揺れ、その音が部屋の静寂を破った。フレデリカの瞳は、そのロープとアレクサンドルの顔を交互に見つめ、好奇心が徐々に彼女を支配し始めていた。

「殿下…本当に、よろしいのですか?」 フレデリカの声は囁くように小さく、しかしその中には挑戦的な響きが含まれていた。彼女はもう一歩後ずさり、壁に背を預けたが、その姿勢はどこか余裕を湛えているように見えた。彼女の指はドレスのレースを軽く撫で、まるで次の展開を待っているかのようだった。

アレクサンドルはさらに一歩踏み出し、彼女との距離をほぼゼロにした。彼の息遣いが、フレデリカの耳元で微かに聞こえる。月光が彼の金髪を輝かせ、まるで神話の英雄のような雰囲気を漂わせていた。「フレデリカ、今夜は…特別な夜にしよう」 彼の声は、まるで呪文のように甘く、フレデリカの心を絡め取った。

部屋の中の空気は、緊張と期待で張り詰めていた。月光だけが、二人のシルエットを静かに照らし出し、これから始まる秘密の時間を予告していた。





嫉妬の影






一方、舞踏会場では、第二王子フェリックス・ランドルフロイヤルが不機嫌そうにグラスを傾けていた。彼の赤みがかった髪と鋭い緑の瞳は、貴族の子女たちの注目を集めていたが、彼の心は別の場所にあった。

「兄上はどこだ?」 フェリックスが側近に尋ねると、返事はそっけない。

「フレデリカ様とお部屋に」 

「まだ舞踏会が続いているというのに…だいたい、フレデリカに先に知り合ったのは俺なのに…くそっ!」 フェリックスの声には、嫉妬と苛立ちが滲む。フレデリカの可憐な笑顔と、兄への親密な態度が頭から離れない。彼の握るグラスが、わずかに震えていた。

フェリックスは、フレデリカと初めて出会った日のことを思い出す。それは春の庭園でのこと。彼女の笑顔はまるで花のようで、フェリックスの心を一瞬で奪った。しかし、彼女が兄アレクサンドルの婚約者として紹介されたとき、彼の心は砕け散った。それでも、彼女への想いは消えることなく、胸の内で燻り続けていた。





秘密の真実




「ひーっ!」 

アレクサンドルの寝室に、鋭い声が響く。しかし、それは女性の声ではない。驚くべきことに、第一王子アレクサンドルが全裸で亀甲縛りにされ、床に転がされていた。ロープが彼の肌に食い込み、月光に照らされたその姿は、どこか異様な美しさを放っている。

「殿下、どうなされました? お声が小さいですわ。会場まで声は聞こえないとおっしゃったじゃないですか。もっと大きな声で鳴いてくださいませ」 フレデリカの声は甘く、しかし冷たく響く。彼女の手には鞭が握られ、軽やかな動きで振り下ろされる。彼女のドレスは、まるで女王のように威厳を放っていた。

「おおおおおーっ!」 アレクサンドルの声が部屋にこだまする。汗と月光が彼の肌を輝かせ、苦痛と快楽が交錯する表情が浮かんでいた。

「その調子ですわ」 フレデリカは満足げに微笑む。彼女の動きは優雅で、まるで舞踏会で踊るかのように軽やかだった。

「フレデリカ…もっと、強く、頼む」 アレクサンドルの声は切なげで、どこか懇願するような響きを帯びていた。彼の瞳には、フレデリカへの絶対的な信頼と、深い愛情が宿っていた。

「はい? 何か仰いました? 聞こえませんでしたわ。殿下、何か間違えておりませんか?」 フレデリカはヒールの先でアレクサンドルの尻をグリグリと踏みつける。その動きは優雅で、しかし容赦ない。彼女の目は、まるで獲物を弄ぶ猫のようだった。

「フレデリカ様、どうか、ご褒美をください!」 アレクサンドルの声は震え、羞恥と興奮が交錯する。彼の心は、フレデリカに完全に委ねられていた。

「よくできました、殿下。変態すぎてドン引きですけど…素敵ですわ」 フレデリカは再びヒールで踏みつけながら、妖艶な笑みを浮かべる。彼女の心には、アレクサンドルへの愛と、彼を支配する喜びが共存していた。

こうして、二人の秘密の夜は更けていく。部屋の中は、月光と二人の吐息だけで満たされていた。



 すれ違う想い



深夜、王宮の廊下を歩いていたフェリックスは、偶然にもアレクサンドルの部屋から出てくるフレデリカを目撃する。彼女の顔は楽しげで、どこか満足そうだった。彼女のドレスは少し乱れ、髪には汗が光っていたが、その美しさは夜の闇を照らすようだった。一方、アレクサンドルは部屋の入り口に立ち、疲れ切った顔でそれでも笑顔を浮かべている。

(フレデリカ…あんな表情、初めて見た…。兄貴、満足させられてないんじゃないか? フレデリカの絶倫ぶりに、兄貴が耐えきれなかったとか…?) フェリックスの頭に不埒な妄想が広がる。彼の胸には、嫉妬と、フレデリカへの抑えきれない想いが渦巻いていた。彼女の笑顔が、兄ではなく自分に向けられる日を、彼は夢見ていた。

舞踏会の喧騒はまだ遠くで続いている。王宮の夜は、秘密と情熱に満ち、静かに朝を迎えようとしていた。フェリックスの足音が廊下に響き、彼の心は新たな決意を秘めていた。フレデリカの心を掴むため、彼はどんな手段も厭わないだろう。



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