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第12話

「言いなさい!その子は本当に久瀬家の子なのか!」


久瀬家のお祖母様は怒りをあらわにし、長く沈黙していた傍らのボディーガードが扉を勢いよく押し開けた。


白鳥瑶は、扉の前に立っている久瀬隼人とお祖母様の姿を見て、驚きのあまり尻もちをついた。さっきまでの傲慢な態度はまるで幻だったかのようだった。


黒川社長の顔はすでに蒼白で、ソファに座ったまま震えていた。いくら黒川家が大きかろうと、久瀬家の前で騒ぎを起こす勇気はない。


久瀬隼人はお祖母様を支えながらゆっくりと個室に入り、黒川社長は慌てて席を譲った。


「一体、どういうことなのか話しなさい!」


お祖母様は険しい表情で、椅子に座るなり問い詰めた。


屈強なボディーガードが白鳥瑶と黒川社長に近づくと、二人の顔に動揺の色が浮かび、とくに白鳥瑶の瞳には恐怖が満ちていた。


「まずはお茶をどうぞ。お体をお大事に……」


黒川社長は慌てて使用人に合図を送り、お茶を運ばせた。そしてお祖母様のそばに走り寄り、愛想笑いを浮かべた。


「お祖母様、私は無関係です。確かに彼女と関係があったのは事実ですが、あの……我々の業界ではよくある話で……」


お祖母様の表情が険しくなり、黒川社長はすぐに言い直した。


「私の、私の業界です!彼女が妊娠したと聞いて、私は流産費として200万円渡しました。でも彼女はそれでは納得せず、両家を巻き込むような真似を……」


彼は巧みな話術で、「黒川家と久瀬家の両方が白鳥瑶に騙された被害者」であるかのように話を進め、お祖母様の表情も少し和らいだ。そこへ久瀬隼人が口を開いた。


「黒川社長、真実を話してください。久瀬家はあなたに報復はしませんし、今後の取引についても柔軟に対応します。」


彼の顔は険しく、空気が一気に冷え込んだ。


黒川社長は目を輝かせた。久瀬家との取引が保証されるのなら、すべてを話す価値はある。


「この女は、クラブで出会った女子大生でした。見た目が気に入ったので囲ったのです。この年で、もう子供を作るなんてできません。ちゃんと対策もしていたのに、この女が策略を使って……」


黒川社長の顔は陰り、白鳥瑶を睨みつけた。


「彼女は妊娠したと言って、私に結婚を迫ってきました。もちろん断りました。ある宴会で彼女にお金を渡して終わらせたと思っていたのに、彼女は久瀬社長に薬を盛って、その子を久瀬家の子だと……」


「本当に久瀬家の子じゃないの?」


お祖母様は立ち上がり、怒りを爆発させた。


黒川社長は何度も頷き。


「そんな女の子供なんて、たとえ久瀬家の血が流れていても受け入れるべきではありません。彼女の策に、私も完全に騙されていたんです。」


「彼女から三度もお金を要求されました。二度目は証拠を見せろと言って、私が付き添って羊水検査をしました。私の子供だとわかったので、仕方なく金を払ったんです!」


まるで雷が落ちたように、お祖母様はその場に立ち尽くし、心を押さえて椅子に戻った。


「久瀬家が……こんな女に騙されるなんて……」


久瀬隼人はすぐにボディーガードにお祖母様の病院への同行を命じ、三人が出ていくと、ようやく彼は目を白鳥瑶に向けた。


彼女は正気に戻り、すぐに膝をついて久瀬隼人の脚にしがみついた。


「違うの!信じて!全部嘘よ!この人が嘘をついてるの!」


黒川社長が冷たく口を挟んだ。


「じゃあ、検査すればすぐわかる。誰が嘘をついてるか。」


久瀬隼人は冷たい眼差しで白鳥瑶を見下ろし、ひと言だけ呟いた。


「検査だ。」


黒川社長は即座に手を挙げ、二人の使用人を呼び出した。


「この女を黒川家の病院に連れて行け。私と久瀬社長が付き添う。」


「嫌!お願い、信じて!隼人!」


白鳥瑶は泣き叫び、必死に彼の足首にすがりついた。


「あなた、あの子をすごく楽しみにしてたじゃない……」


彼女の頬を涙が伝う。しかし彼は一言も返さなかった。その沈黙に白鳥瑶はすがるように叫んだ。


「霧島栖ももういない、私たち三人で暮らせば……」


その瞬間、久瀬隼人の怒りが爆発した。彼は白鳥瑶の首をつかみ、目が真っ赤に染まる。


「誰が、いないって?」


黒川社長は慌てて数歩後退した。


白鳥瑶は首を締められ、顔色が青紫に変わり、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった。


「んぐっ、んぐっ……」


久瀬隼人がようやく手を緩めると、彼女は息を整え、臭気をまき散らしながら息を吐いた。黒川社長は鼻を押さえて近づき。


「久瀬社長、ご安心ください。検査結果は私が責任を持ってお届けします。」


白鳥瑶はついに仮面を剥がし、憎しみに満ちた顔をあらわにした。


「久瀬隼人!霧島栖が離婚したいって言ったのも、わかる気がするわ!」


久瀬隼人は雷に打たれたように呆然とし、手を放した。


白鳥瑶はその隙を突いて彼から離れ、勝ち誇ったように笑った。


「霧島栖はもういないのよ!とっくに出て行ったわ!」

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