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第13話

「清和、一日中ここでゆりりの相手をしていて、本当に大丈夫なの?」


霧島栖は一杯のコーヒーを運びながら言った。ラテアートには、猫の顔が描かれていた。


「大丈夫だよ。」


林原清和は微笑みながら、またしてもゆりりの腹を撫でていた。


あの日、二人で小猫を動物病院に連れて行き、避妊手術を受けさせたあと、自然な流れでカフェにしばらく預かることになった。


小猫はエリザベスカラーをつけながらも食欲旺盛で、そこからゆりりと名付けられた。


そしてその日から、林原清和は霧島栖と彼女のカフェにすっかり馴染み、開店前から店の前に現れ、閉店まで離れようとしなかった。


ゆりりと彼の存在のおかげでカフェの評判も上々、当初はのんびりした生活を思い描いていた霧島栖も、毎日忙しく駆け回る日々を送っていた。


「栖、まだ住む場所が見つかってないの?」


彼女は首を振り、ため息をついた。


「今のところ、見に行った物件はどれも気に入らなくて、だからしばらくは店に寝泊まりしてるの。臨時に設置したベッドはやっぱり寝心地が悪いし、ゆりりも私の足元に丸まって寝てる。」


林原清和は一瞬黙り、そして口を開いた。


「栖、実はうちの家、けっこう広いんだ。もし気にならなければ、うちに来て住まない?」


「清和……私……」


彼女は最初、断ろうとした。


でもなぜか、霧島栖の脳裏に二人の初対面の情景がよぎった。気づけば、彼女は違う言葉を口にしていた。


「……うん。」


「本当に!?」


林原清和は信じられないように目を見開き、整った顔に嬉しさが広がった。


霧島栖は顔を赤らめて、視線をそらした。


「今日の閉店後、すぐ行こう。待たなくていい。」


そう言って彼は、ロフトにある彼女の荷物を整理しに向かおうとした。


「閉店まであと二時間。今のうちに片付けておこう。」


 その様子に、霧島栖は思わず吹き出した。


「ゆりりの荷物、運ぶのにも時間がかかるわよ!」


 彼は階段の途中で振り返り、目をぱちぱちとさせた。


「運ばなくて大丈夫。もう全部用意してあるから。」


霧島栖は呆然と立ち尽くす。どうしても、この人、最初から計画してたんじゃないかって思ってしまう。




その頃、久瀬家。


黒川社長は慎重かつ丁寧に、一通の報告書を久瀬隼人と久瀬祖母の前に差し出した。久瀬祖母は報告書に書かれた白黒はっきりした文字を見て、卒倒しそうになった。


久瀬隼人は、黒字を凝視したまま、握りしめた手の関節が白く浮き出ていた。


「鑑定結果:久瀬隼人氏と胎児の間に血縁関係は認められません」


「……ふっ。」


 彼は冷たく笑い、報告書を捨て。その瞳の奥に渦巻くのは、名状しがたい怒りと冷酷だった。


黒川社長はその気配を察し、慌てて前に出た。


「久瀬社長、どうかご安心ください。この女とその子供、私が責任を持って処理いたします。二度と久瀬家に関わらせません!」


だが、久瀬隼人の唇は不気味に笑みを浮かべ、血走った瞳に冷徹な光が宿っていた。


「……いや、黒川社長。そこまでしていただかなくてもいい。この女の処分は、久瀬家で行う。」

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