駅前にピエロがいた。
何てことないただのピエロ。
―――否、ピエロが只者である訳ないか。
秋葉原と言う『コスプレした男女(9割女子)』らがいる地域だから感覚がマヒしていた。
それにこのピエロと出会うのは初めてじゃない。
秋葉原や渋谷。池袋と言った著名な駅に出没するこのピエロさんは目につくし覚えやすい。
池袋の駅の連絡通路下で演奏しているおっさんや錦糸町駅前で歌っている男子学生と同じくらいよく見る。
ピエロはマスクをしていて視線が合わない。
弾き語りをしているパフォーマーは見ていると失礼かなぁ…と思ってしまうのだがこのピエロはいくら見ていても見返してこないから気が楽だ。
だがこのピエロさんもよくずっとこうやって立ち続けていられるものだ。
俺なんて同じ場所に立ち尽くしていたらふざけたくなってしまうのにこのピエロさんは不動のままずっとここに立ち続けている。素晴らしい。
何秒か、何十秒か。
ピエロさんを見続けていたら自然と財布に手が伸びてしまっていた。
ピエロさんが躍り出す。
流暢なロボットダンスを見せてくれたピエロさんは最後に「thank you」の看板を掲げパフォーマンスを終えた。
俺はその場から去る。
たった百円。たった数分。
500円玉があればよかったのだが次はいつ会えるだろうか。