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0607 二羽のチョウチョ

「おい、お前髪飾りどうしたよ」

「ん?あ…」


人込みから外れて足を止めると彼女は頭に手をやり、つい数分前まで髪を留めていた髪飾りが無くなっている事を確認した。


少しの沈黙。


俺は彼女と一緒にやって来た道を戻ろうとしたがそれを彼女が止めた。


「探さなくていいよ。

この人込みを逆行していくのは危ないし」

「…良いのかよ。

お前がいつも付けてる奴じゃん」

「良いの。

それにあの髪飾り少しヒビが入ってていつ壊れてもおかしくなかったんだ。

だから今日旅立ったならもうお役御免なんだよ」

「…旅だった?」

「うん。

あの蝶は壊したんでも無くしたのでもなく旅だったんだよ。

そう言った方がロマンチックでしょ」

「…なるほど」


彼女は俺の手を引いて再び人ごみに戻る。


「旅だったのか…」

「そう旅立った」

「じゃあもう片方の蝶はどうなるんだ?」

「ん?

うーん…」


彼女は少し悩んでから髪飾りを取り外し、俺の洋服の袖口に留めた。


「じゃあもう片方は君の所に旅立ったって事で」

「…ハァ」


彼女の元から蝶がいなくなってしまった。


彼女はよくよく髪飾りを変えているがあの蝶の髪飾りは印象深くとても似合っていた。

あの髪飾りが見れなくなるのは―――悲しい。


「帰らない旅なのな」

「そうだよ。

蝶はいつもフラフラしているからね、私みたいに」

「あぁ、そう」


ーーー


と、そんな返しをして一週間ほど。


偶然、蝶の髪飾りを見つけた。

彼女が持っていた物より僅かに大きく、それでいて華やか。


値段2500円。番で買うなら5000円


決して安くはないが思わず買ってしまった。


旅に出た蝶が一回り大きくなって帰ってきたら面白いかなと思って。

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