私が使っている研究室は元々薬品の保管庫で地下にある。
上階で作った薬品を下の階に持って行くの面倒で上に申請を出してこの場所を研究室として使わせてもらっているのだが先述した通り地下にある為出口は一つしかなく窓はない。
また私の研究室(薬品保管庫その1)と現役の薬品保管庫(薬品保管庫その2)の間には給湯室がある。
給湯室には戸が無く、廊下に直に繋がっているのを覚えておいて欲しい。
私が給湯室でコーヒーを作り自分の研究室に戻ると客がいた。
特別注意を払っていた訳ではないが廊下を人が通る気配が無かったのに人がいる事に驚いた。
「誰だい?」
「ーーーあぁ、そういう事か。
私だよ、『私』」
含みのあるトーン。何かと思い注意してその人を見てみればどこかで見た事のある顔―――
「あぁ、私なのか」
「そうだよ、この世界の私。
元気しているかい?」
「元気だがどこから入ったんだい?
それに君は…私なのかい?」
「あぁ、私だ。
補足すると異なる世界にいる私だがね」
「異なる世界?
平行世界(パラレルワールド)的な話かい?」
「あぁ、そうだ。
だがあえて自己紹介しよう。
私だ。
私はこの学校で量子力学と電子工学を主に研究している」
「なるほど、量子力学と電子工学か。
もしかして平行世界から来た私と言う事かい?」
「流石私だ。
察しが良くて助かる。
だがその答えはNoに近い。
小暮君。一度ホログラムを切ってくれ」
姿が透けるように段々と消え、その中から細い棒と小型カメラ。それに棒の根元にある黒い正方形が目に止まる。
「平行世界に持ち込めるのがそのキューブ一つだけだったんだ。
今は遠隔操作でそのキューブから外の様子を確認させてもらっている」
「なるほど了解した」
再び滲むように私が現れる。
「所で私。
今日こちらへ来訪した要件は?」
「唯の実権さ。
所でこちらの私は何をしているんだい?」
「私は生物学と化学を専攻していよ」
それを聞いた私は不細工に笑った。
「そうか。
もう少し話したい所だがそろそろ通信が途切れる。
その通信機は分解するなり資金にするなり好きにしてくれて構わない」
「承知した。
適当に工学科に渡しておこう」
次の瞬間、私の姿が何度も点滅してから消えた。
残ったのはその場にある四分音符みたいなキューブだけ。
彼女がいなくなると私は携帯を取り出してインカメに向けて笑って見せる。
撮影した写真をファイルから確認。
自分の笑顔の汚さに悲しくなった。