大きく息を吸って、数秒とどめてからゆっくりと吐く。
「太郎---「そう言えばお前の好きな花子。バスケ部の先輩に告ったらしいぞ」ーーーちょっと待てぇ!」
出ると言いかけスタートダッシュを決めようとした太郎は慌てて足を止めた。
「え?なんで今それ言うのさ???」
「勝負に絡め手は付き物だろ。
後4分」
「いやいやいや、なんだよその情報。
その告白どうなったんだよ」
「花子本人に聞いてみればいいんじゃね?
それよりも先にナンパ成功させないと奢りだからな」
「いやいやいや、セコイにもほどがあるって。
何でよりにもよってディズニーでナンパする前にその情報なのさ」
「んなの勝負だからに決まってるだろう。
それより早くしないと時間が終わるぞ」
「待てよ。
お前はその結果知ってるのか?」
「まぁそりゃな」
「何で教えてくれないんだよ」
「花子本人から口留めされてたんだよ」
「どうして口留めされてるんだよ。
このままじゃおちおちナンパも出来ねぇよ」
「させない為にやってるんだから教えるわけないだろ」
「いや、そこを何とか。
俺達友達だろ」
「そうだな…昼飯奢ってくれるなら考えてやる」
「それくらいならお安い御用さ!
で、結果は」
「実は昨日、フラれて泣いている花子を見つけて口留めされたんだ」
勝った。
俺はその場でガッツポーズし天を仰いだ。
よし、まだあの子はフリーだ。
ならまだ勝機がある。
まずはこのナンパを成功させて花子への告白を成功させて見せる!
そして勝利も花子もどちらも手に入れてやるんだ!!
―――とでも息巻いているのだろう。
両腕を上げた後、太郎が大股で女の子集団に向っていくのを見届けてから深呼吸。
これだけ離れていれば深呼吸の音も聞こえまい。
あいつ。ここでナンパを成功させても昼飯はおごらなきゃいけない事に気づいていないんだろうな…。