「お疲れ様」
「おつ、柳原」
「リュウくん。
うん…、お疲れ様」
「本当にお疲れって感じだな」
文化祭が終了し、実行委員会に所属していた幼馴染の岡部美里を校門で待っていた。
美里は同じ実行委員の畑中と共に近くにやってくる。
「ごめんね、待たせて」
「いや良いよ。
んじゃ一緒に帰るか」
「おっと、柳原。
ちょっと待った」
「どうしたんだ?」
俺が帰ろうとしたのを止めて来た畑中は美里の肩に手を置く。
美里に何かあるのかと思い彼女を見た。
目線が合い、逸らされる。
「あ…。ぁ…」
消え入りそうな声で何度か口を動かしたが次の音が出てこない。
だが彼女が言おうとしたそのセリフが大切な物だと感じ取り身構える。
一度大きく俯いてから息を吸って顔を上げる。
「彼女になってあげる」
震える声から絞り出された言葉。
しかし次の瞬間、彼女自身が慌てふためき視線を泳がせた。
だがしっかりと伝わった。
「ふふ…」
思わず笑いがこみ上げ笑うと彼女は耐えきれないというように体ごと反転させた。
必死な彼女が出した告白の言葉。
別に彼女はツンデレな訳ではない。
素直になれない彼女なりに思いを「歌」に込めたのだろう。
好きな歌姫の言葉を借りてどうにか口にしたその言葉。
ただちょっと『歌詞の通り』ではないがあの子が覚悟を決め宣言したのなら僕もそれに返そう。
「いきなりで、ごめんね♪
ずっと前から好きでした。
ドキドキ胸の音、君に聞こえてないかな」
同じ歌姫の別の曲。
彼女が振り返り目を見開く。
彼女が口をパクパクさせて十数秒。
「からかってるんじゃないよね…」
「ごまかさないよ、この言葉は」
息を吸い、旋律を乗せる。
「これ以上好きにさせないでよ♪」
彼女は顔を覆い、鼻声で答える。
「こちらこそ」
顔を隠しているが彼女は恐らく泣いている。
歌の通りに行かないこの世界。
俺は再び笑ってしまった。