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0712 じれったい関係

「渡会、高島。

昼休み明けに10分くらい資料の作成を手伝ってもらっていいか?」

「先輩、それなら私がやりますよ」


チームの若手、新井が先んじて手を上げてくれたが「いや、大丈夫」と、俺はやんわり断った。


「今回は二人と話したい事もあるから新井はいいや。

で、二人ともいいか?」

「私は構いませんよ」

「橋本さんの頼みなら」


二人は素っ気なく返事をして自身の仕事に取り掛かった。

そんな中、新井が近づいて話しかけて来る。


「先輩、何の話をするんですか?」

「いや、ちょっと雑談をな。

渡会も高島も良い奴なんだが二人とも口数が多い訳じゃないし仕事がてら少しでも話してどんな奴なのか知っておこうと思ってさ」


先月始まりに新造されたこのチームは自分を含めた4人態勢。

新井とは面識があり元から仲が良いのだが二人はこのプロジェクトで初めて出会い、まだ日が浅い。


それに二人とも口数が少なくゆったりとしたタイプで表情にも乏しい。


つまるところ二人とあまり関係が上手くいっていないのだ。

だがパワハラセクハラ騒がれやすい昨今、初手で飲みに行くのも気が引けるので一度雑談しやすい環境を作り出す事にしたわけだ。


***


お昼休みが終わり空き会議室。

資料のホッチキス止めと言う軽作業を開始し、話しかけようとした寸前渡会が「あの」と声をかけた。


「すみません、気を使わせてしまって」

「…はい?」

「いえ、あんまり喋らないから気を使わせてしまったと思って」

「それ、私も思ってました。

ごめんなさい、橋本さん」

「いや、二人が気にする事じゃないさ。

それに二人ともめちゃくちゃ仕事してくれるだろ。

ってか二人がそれだけ思っていてくれたならチームも安泰だな」


そう言った瞬間渡会と高島は目を逸らした。


「え…」

「あ!公私の区別はつけますから大丈夫です」

「仕事に支障は出しません!

最悪の場合自分だけでもやるんで」


高島がそう言えば渡会が高島をきつくにらんだように見えた。


「…あのさ、もしかして二人って仲悪いのか?」

「いや…」「えっと…」


言いよどむ二人。


「もし良かったら何があったか話してくれないか?」

「ごめんなさいそれはちょっと」

「はい。むりですね」


無理と言う明確な否定の言葉に首筋を垂れる汗が一つ。

こういう人間トラブルは何が起こるか分からないから怖いのだ…。

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