夜20時。
焦って走って行った彼氏は海辺で何もない船着き場の前にいた。
街頭に照らされて映し出された彼の後ろ姿。
その姿は悲しさがにじみ出ている。
サプライズと言って進めてくれたこのデート。もしかしなくてもクルージングデートだったのではないのだろうか…。
「ごめん…私が遅れたばっかりに…」
一瞬の間。彼は振り向きながら天を見上げて高笑いした。
私が遅刻してクルーズデートが台無しになった事を怒った上で笑ってごまかそうとしている…。
まさかサプライズがクルーズデートだとは思ってなかったし私も残業でどうしようもなかったのだがかける言葉が見当たらない。
―――と、そんな事を考えていた時彼はゆっくりと高笑いの速度を脅し小さく笑う。
「いやぁー…やらかしたわ。
クルーズ船はサプライズに向かないね」
「…ごめん、私が遅れたばっかりに」
彼は私を見つめて少し不思議そうな表情をした後近づいて来る。
頭に向けて伸ばされる腕に思わず目を閉じたがそのまま何事もなく頭を撫でられた。
「もしかしてマリーは起こられると思った?」
「…少し」
「残念な気持ちが無いかと言われればウソになるけどヘッチャラだよ。
それに明日もフリーなのにしょげている方がコスパが悪くない?」
「あ…うん」
論理的で計画性の高い彼の感情抜きの理屈解。
私が彼の心中を察するより早く彼がしゃがみ込み私の膝の裏から手を回しこんで一息で私を持ち上げた。
声を出すより驚きが勝って近くにあった彼の頭を思わず抱え込む。
「船は乗れなかったから僕の腕の中で我慢してくれる?」
「…我慢も何も悪いのは私なんだけどまず大丈夫コレ?」
「大丈夫じゃないよ。
もう少し太らないと誘拐されそうで怖いな~」
「そっち!?」
「さて、マリー。この時間だとあまりいいお店は空いていないけどどこが良い?
ファミレスは無しでね」
にこやかな彼の笑顔に呆然としてしまったが直ぐに意識を切り替える。
「なら町中華!
とびっきり辛いの」
「ハハ、安いのに普通にマリーの好みだから遠慮して良いよって言うべきかそのままにすべきか判断に迷うね」
「良いの、私辛いの好きだし」
やらかした失敗の後ろめたさを悟られぬよう、そして全力で楽しめる様に私は彼に向けて笑いかけた。