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0729 全てを目に焼き付ける

正月。久しぶりに返って来た実家。

家族4人がそろって迎えた元日。


俺は弟に初詣に行かないかと誘ったら「午前中までなら良い」と返答をもらった。


簡単に支度し家を出てから神社までの道を歩きつつ弟に尋ねる。


「午後から何があるんだ?」

「撮影があるんだよ」

「撮影?

お前映像会社にでも就職したのか?」

「違う趣味だよ。

コスプレグループの」

「…お前がコスプレするのか?」


弟は俺と同じで父親譲りの強面な悪く言えばブスに分類される顔をしている。

そんな事を考えたら弟は「まさか」鼻で笑う。


「俺は撮影役で撮るのは愛華だよ」

「愛華…あぁ!中学校までお前とつるんでたあの子か!」


面識がある美少女の名前を聞いて俺は驚いた。


「おぉ、マジかよ。

お前の顔であの美少女の撮影役に選ばれるなんてすごい確率だな」

「顔は余計だ。

それに俺はあくまで映像編集の技術を買われているだけなんだよ」

「そういやお前は昔からMadとか作ってたもんな。

そう言えばそっちは何かやってるのか?」

「Madの事?」

「あぁ」

「昔一人で作っていた様なのはやっていないよ。

今はグループの方の撮影で忙しいから。

あ、兄貴。

もし良かったら今日の夕方車で迎えに来てくれないか?

大荷物だからタクシーで帰る予定だったんだけど出来れば安く済ませたい」

「良いよ。

何処に向えばいいんだ?」


―――と言うのが朝焼けの空での会話だった。


初詣の後仮眠し、弟の指定された場所に向かう。

言われた時間より少し早いが撮影を行っているという場所にやって来たのだがスケート場。

事前に言われた通り受付口から中に入り滑走場へ。


年末年始の誰もいないリンクに音楽と子気味の良い衝突音が続く。

情熱的で子気味の良いと音楽に合わせステージ中央で舞うのは『美男子』だ。


オリンピックでフィギュアスケートは見た事あるがそれよりもスピードはなく回転も少ないが大きく軽やかに切り替えし舞い続けるその動き。


最後彼が静止し、音楽が途切れるまで俺は彼から目が離せなかった。

性別も超えた美しさ。と言うべきだろう。


そんな彼に一人の男が近づいた。

弟である。


俺はそこでようやく現実に引き戻されリンク近くへと向かった。

彼はカメラを片手に持った弟とリンク上で話し、すぐに笑顔を浮かべリンクの端へと滑ってくる。


「あ、兄貴」


弟が気づきこっちに手を振って来た。


俺が「すごかった」と称賛の言葉を送る前に『彼』が「あ!」と一際高い声を上げた。


「お兄さんお久しぶりです!!」


……


女性の声だ。

と言うか近づいてみれば体がところどころ華奢で丸みを帯びている。



「あ!男装!!」


先程から踊っていたのは「彼」ではなく「彼女」だったらしい。

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