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0730 ひんやりとした刃

「どう思いますか?」

「…色んな意味で異常だなこりゃ」


とある事故現場の鑑識としてやって来た俺は殺人現場を見て思わず笑ってしまった。


人がお釈迦になっているので笑うべきじゃないのだがお釈迦になっている人間があまりにも綺麗な死に方だったのである。

寝台の上に解体途中の肉体があり、首から上は真っ二つにされ汚物の様に排水溝近くに置かれている。

血はあまり部屋に散らばっておらず、排水溝近くに投棄された血に染まったモップで拭き取られていた。

だがしかし天井は拭き取る時間が無かったのか赤いシミになっている。



「何かしらの不意打ちで首を一刀。

のたうち回った体がしっかり止まるのを待ってから寝台の上に起き死体を整えて解剖。

解剖した死体を一つ一つコマメに解体している所第一発見者がやって来た。犯人はそれを見られないように逃走を選択。

犯人は二人以上で一人がばらした肉体から血がこぼれないよう袋詰めしつつカバンに入れ、もう一人が最初の一刀で飛び散った血の清掃していた。

…いやぁ、事件現場で死体を解体するなんて馬鹿じゃねぇの?」

「ですね。

解体はあのデカい包丁で行ったとみるべきですかね」

「絶対に違うな」


地面に落ちていた包丁を見て俺は言う。


「その包丁の表面に血痕とは別の水滴がついてるだろ」

「あぁ…、本当ですね」


彼はしゃがんで包丁を振れないように顔を近づけながら言う。


「この霊安室は外より気温が低くてその出刃包丁は冷え切っていた。

そこに第一発見者が入室した際驚いて扉を閉め忘れ外の空気が部屋に満たされ包丁に水滴がついた」

「…なるほど。

え?じゃあこの包丁は誰の…」

「これは本当の意味で推測にしかならないがそこの被害者の物だろうな。

一課の奴から聞いたがここ最近人肉のばら売りがあったらしい。

デカい病院の霊安室で身寄りのない遺体をバラして売ったとしたらその話と辻褄が合う」

「なるほど…。

って事はこの被害者をやったのはその悪行を知っていた誰かの報復とかですかね」

「もしかしたら被害者のビジネスを横取りしようとした別のパートナーかもしれないぞ」

「なるほど…。

あ、実は元々三人組で一人裏切ったとかどうです?」

「いや、それならその未使用の包丁の辻褄が合わないだろ」


―――と、もうちょっと推理大会に花を咲かせたかったが辞めた。


「まぁ事実を決めるのはお上の仕事だ。

俺達は見つけた事実をありのまま報告するぞ」

「はーい」


俺はそこから無駄口を叩かず鑑識作業を始めた。


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