花束を手にその場に来れば先客がいた。
落ち着いた色の服装の男性だ。
彼の足元にも横たえられた花束があった。
交差点の角。互いに花を持っていれば自ずと理由は分かる。
私は思わず彼に「すみません」と話しかけていた。
「あの、彼の知り合いですか?」
「はい」
「彼の事について教えてくれませんか?」
「…あそこのカフェでお話ししましょうか」
彼はそう言って向かいのカフェを指差した。
二人で変えに入り席に座れば彼から口を開いた。
「飯妻彼方さんですよね」
「!はい」
名前を知られている事に驚いていると彼は名刺を取り出し私の机に置いた。
名刺には『探偵』の二文字があった。
「私は彼の両親から依頼を受け彼の動向を逐一報告していました。
この都度はご愁傷様です」
「…探偵さん?」
「はい。
彼はとある事情から家族から破門されていたのですが今回の事もあり先方の両親からこちらをお預かりしております」
そう言って彼は私の前に一通の手紙を差し出した。
***
彼女に渡したのは彼の両親を語った俺直筆の手紙だった。
あの男は結婚詐欺師であり、彼女は被害にあう直前だったのは知る由も無いだろう。
今頃は恐らく存在しない彼の両親からの手紙を読んで涙を流している事に違いない。
彼女は好きな男を好きなまま恋を終えた。---はずだ。
―――確認していないのだから結果がその通りになっていない可能性もあるのだがそんなの知ったこっちゃない。
自分の好きな人間が結婚詐欺師かどうだったかみたいに。