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0802 雲の上

―――ポーン


飛行機のシートベルトを外してもよい合図が出た。

シートベルトを外し、座席下に置いていたポーチからソレを取り出そうとしたら手から滑り落ち、隣の席側に飛んで行った。


しかしそれに気づいた隣の日本人がすぐに手に取る。


「珍しいですね、ウォークマンなんて」

「そうかもしれませんね」


ウォークマンとは2010年頃スマートフォンが普及していなかった時代の音楽プレイヤーだ。

今はほぼ完全にスマートフォンの下位互換の為持っている人が少ないだろう。


「いつも使ってるんですか?」

「えぇ、むこうのランニングの時にはいつも。

軽くてかさばりませんし取られても痛くないですから」

「へぇ」

「一度ポーチごとパクられた時にそのまま戻ってきたことがあるんです。

中身がカラだと思ったんでしょうね」

「へぇ、マジですか」

「大マジです」


彼は懐かしそうにウォークマンを眺めた後に私に返してくる。


「すみません、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ珍しい物が見れました。

ところで先程向こうって言ってましたけどアメリカに長くいたんですか?」

「えぇ、7年ぶりの帰国ですよ。

大震災もあって帰るのが遅くなりました」

「そうですか」

「七年もたつと大分変りましたかね」


彼は少し考え込むと苦笑いして答える。


「そうですね。

変わってしまいましたね」

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