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第3話:猫神様のダメ出し



 新居で使う物の移動を終えた後。

 俺はホームセンターへ、キャットフードを買いに行った。

 でも、俺は今まで猫を飼ったことがないから、キャットフードの良し悪しなんか分からない。

 どれがいいか迷って、店員さんにオススメを聞いて1袋買って帰った。


「先に教えておけばよかったのぅ」


 猫神様が残念そうに言う。

 オススメポイントの「多くの猫ちゃんが好んで食べる」というだけでは、良いものとは言えないらしい。

 俺はキャットフードの袋を見た猫神様から、ダメ出しを食らってしまった。


「聖夜よ、せっかく買ってきてくれたところスマンが、これは子育て中の母猫にはイマイチなのじゃ」

「えっ? 店員さんのオススメなのに?」

「嗜好性が高く食いつきは良いじゃろう。じゃが、それだけではイカンのじゃ」

「そうなんだ……」


キャットフード選びのポイントは何だろう?

店員さんは猫ちゃん好みの味を推してはいたが、他は特に何も言ってなかったな。


「とりあえず座って、まずはここを見るがよい」


 促されてソファに座る俺の隣に、巨大フサフサ茶トラが座る。

 猫神様はキャットフードの袋を両手(前足)で器用に持ち、袋の後ろ側に記載された成分表を俺に見せた。


「キャットフードを買うときはな、成分表を見て商品を選ぶのじゃ」

「この成分はイマイチ?」

「うむ」


俺が買ってきたキャットフードの成分表は、こんな感じだ。



【原材料名】

 穀類(トウモロコシ、コーングルテンミール、小麦粉、パン粉)

 肉類(チキンミール、ポークミール、ビーフミール、チキンエキス)

 動物性油脂

 魚介類(フィッシュミール、フィッシュエキス、まぐろミール、かつおミール、白身魚ミール)

 ビール酵母、酵母エキス

 ミネラル類(カルシウム、塩素、コバルト、銅、鉄、ヨウ素、カリウム、マンガン、リン、亜鉛)

 アミノ酸類(タウリン、メチオニン)、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、コリン、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸)

 着色料(二酸化チタン、赤色102号、赤色106号、黄色4号、黄色5号)

 調味料、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ハーブエキス)



「成分表の原材料の並び順はな、多い順に書かれておるのじゃ」

「そうなんだ。今までじっくり見たことなかったよ」


 猫神様に、食品成分について教わる俺。

 俺は美味けりゃ何でもいい感じの食生活を送っていたので、成分表とか全く気にしてなかったよ。

 猫神様が人間の俺より人間が作った物について詳しいのは、さすが神様ってことでいいか?


「原材料名で一番最初に書かれているものは【第一主原料】といって、最も多く使われている物なのじゃ。このキャットフードは【穀類】が一番多いということじゃな」


 猫神様は説明しながら、両手で持っているキャットフードの袋に何か力を使ったらしい。

 詠唱とか何も無かったけど。

 キャットフードの袋が金色の光に包まれて消えたた後、ソファーの前のテーブルに様々な素材の小さな山ができた。


「分解完了じゃ。この粉末が、猫には基本的に必要ない素材じゃな」


 猫神様が指し示すのは、テーブルの上に並ぶ素材の中でも、比較的大きめの山だった。

 コーンの香りがする黄色い粉と顆粒、小麦粉らしきものと、パン粉らしきもの。

 黄色い粉と顆粒は使い道が浮かばないけれど、何かに使えるかな?


「この黄色い粉は時戻しの魔法を使えば……、ほれ、そなたの好きな食べ物になったぞい」


 猫神様が黄色い粉と顆粒に片手をかざすと、それらは寄せ集まり、光った後に丸ごと1本のトウモロコシに変わった。

3キロのキャットフードの中に、トウモロコシが1本入っているのかは謎だ。


「トウモロコシ、あとで茹でて食べようかな」


 猫神様が俺の好物を知っている件はおいといて。

 まるでついさっき畑でもいできたような新鮮なトウモロコシに、俺はちょっとワクワクしてしまった。


「先に使ったのは【分解】、作られたものを製造前に戻す魔法じゃ。後から使ったのは【時戻し】、状態を戻す魔法じゃ。この2つの魔法も、そなたに授けてやろう」


 猫神様が使ったのは、【分解】と【時戻し】という魔法らしい。

 そこらのホームセンターで買ったキャットフードから、トウモロコシが手に入るとは思わなかった。

 小麦粉とパン粉も料理に使えそうだ。


「猫は肉食獣ゆえ、主食は動物性たんぱく質を含む物じゃ。人間と違って穀類は消化しづらく、多量に摂取すると下痢や便秘や消化不良を起こしたりするぞい」


 猫神様はテーブルで小さな山を成している素材の中から。肉類や魚介類など猫に必要なものだけをまとめて、小さな粒に変えた。

 猫神様が食器棚に向かって招き猫みたいに片方の手(前足)を動かすと、食器棚の扉が開いて小鉢がこちらへ浮遊してくる。

 再構成されたキャットフードが、空中を漂って小鉢の中に納まった。


「みっ、みっ」

「腹が減ったと言っておる。これを母猫に食べさせてやるがよい」


 猫神様に言われて、俺は空中に浮いている小鉢を手に取り、段ボール箱の中に入れてやった。

 母猫がすぐに顔を突っ込んで食べ始める。

 カリッカリッと音をたてて、母猫は夢中でキャットフードを貪っていた。


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