猫神様がくれた異世界の家の中。
俺はキャットフードと一緒に買ってきたものを猫神様に見せてみた。
「店員さんが、これも必需品よ~って言うから買ったんだけど、こっちは問題ない?」
引っ越し荷物の横に置いた箱の中から取り出したセット物。
それはシステムトイレと呼ばれる猫用トイレと、専用の砂やシートが入ったセット品だった。
「ふむ。こちらは特に問題ないようじゃ」
猫用トイレを見下ろして呟く、巨大フサフサ茶トラ猫。
猫の姿の神様も、こういうトイレを使うんだろうか?
神様が排泄とかするイメージないけど。
「この粒々は木でできておるな。これならそこらの木で作れるぞい」
「マジっすか」
木から猫砂を生成できるらしい。
消耗品みたいだから、作れるものなら自作した方が安上がりだろう。
「どれ、試しに作ってみるかの。ついでに【生成】の魔法を授けてやろう」
猫神様がくれた4つ目の魔法は、素材から何かを作り出す生産系の魔法だった。
これで俺は【空間移動】【分解】【時戻し】【生成】の魔法が使えるようになる。
「庭へ行こう。ついてまいれ」
「母子はあのまま置いといて平気?」
「うむ。お産で疲れたからゆっくりすると言っておるぞ」
「じゃあ、トイレの設置だけ済ませておくよ」
俺は新品のシステムトイレを説明書を見ながら組み立てて、猫砂とシートをセットして段ボール箱の隣に置いた。
猫を飼うのは初めてだけど、強力なアドバイザーがついているから戸惑いはほとんど無い。
何よりも直接ではないものの、意思疎通ができるのはかなり助かる。
「ついでにこの家がどこに建っているのか、見ておくとよいじゃろう」
と言う猫神様に連れられて、出てみた家の外は深い森の中。
なるほど、木はいっぱいあるから木製の猫砂作りの素材は充分だな。
「上空から見せてやろう。我の背中に乗るがよい」
「えっ?! いいの?!」
「かまわんぞ」
猫神様に言われて、俺はフサフサした毛並みに覆われた背中に乗る。
柔らかくて滑らかな毛皮は美しく、その下から温もりが感じられた。
「では飛ぶぞ。落としたりはせんから安心せい」
ふわり、と猫神様が俺を乗せて空へと浮かび上がる。
揺れはほとんどなく、気球のような上昇だ。
家と木々が下へと離れていく。
眼下の風景がジオラマのように見える頃、俺は新居がどこに建っているのか把握した。
「聖夜よ、そなたに与えた家は庭付き戸建て、この島全体がそなたの庭じゃ」
「もしかしてこれ、無人島?」
「勿論じゃ。我が許可した者しか、ここに入ることはできぬ」
猫神様の物件は、無人島つき戸建て。
青い海と珊瑚礁。
緑の木々と白い砂浜。
小さな島の真ん中に、小さな家が建っていた。