猫神様は俺を乗せて無人島上空をゆっくりと旋回した後、ふわふわ漂うように降下して森の中に降り立った。
森林の良い香りがする。
その空気を吸っているだけで、身体の調子が良くなる感じがした。
森には様々な木々が生えていて、どれも長い年月を経ているように幹が太い。
見上げても幹の先端はどこなのか見えないほど遠く上まで伸びていた。
頭上を覆う枝葉の間から、幾本かの細い光の柱が地面に注がれている。
近くには澄んだ水が流れる小川があり、心地よい水音をたてていた。
川岸の大きな石はどれも苔に覆われている。
ビロードのような緑に覆われた石と白く泡立ちながら流れる水の組み合わせは美しく、あちこちに見える大木もセットで1枚の絵画のようだ。
神の島。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
日本にも幾つかそう呼ばれる島があったな。
まあ実際にこの島は神様の所有物なんだけど。
そんな場所に「猫を飼うため」だけに移住した俺って一体……。
「さて、ここらの木でシステムトイレ砂を作ろうかの」
「こんな樹齢千年くらい経ってそうな木を使っちゃっていいの?」
森の神々しさに圧倒された俺に構わず、猫神様ってば神社の御神木クラスの大木を猫砂に変えようとしてるよ。
人間がやったら神罰が下りそうだけど、神様だからそれは無いか。
「なーに、千年なんぞ直ぐじゃからの」
「さすが神様、時間感覚のスケールが違う……」
ニコニコしながら千年を「直ぐ」と言う巨大フサフサ茶トラ様。
人間の俺からしたら寿命の14~5倍くらいの年月なんだが。
「ま、そんなことは気にせず【生成】を伝授するゆえ、よく見ておれ」
「はい」
大木が立ち並ぶ深い森の中、猫神様が手近な1本の木に片手(前足)を翳す。
そこから、モフモフの手をキュッと握り込むような動作をすると、目の前の木が光に包まれて形を変え始める。
木は渦を巻く光となりクルクルと回った後、地面に降り注いで見覚えのある粒々に変わった。
猫砂だ。
俺がホームセンターで買ってきたシステムトイレセットに入ってたのとそっくりなやつ。
神の島で神様が御神木(っぽい木)を使って、作ったものが猫のトイレ砂だよ。
……なんだかなぁ。
「ついでに、物を運ぶのに便利な魔法を授けてやろう。【異空間倉庫】じゃ」
「そっそれはっ、異世界ものでは定番で人気のやつ……」
「そうじゃろう? あると便利じゃからの」
なんともいえぬ気持ちになっていたら、猫神様が素敵な魔法を授けてくれると言う。
それは、創作界隈で異世界転生者や転移者が持つお約束のものじゃないか。
俺が期待に満ちた目を向けたら、猫神様は得意気にニコニコしていた。
猫神様は地面に積まれた木製猫砂に片手を向けて、空中をサッと撫でるような動作をする。
何も無い空中にポッカリと異空間への穴が開き、猫砂を吸い込んでいく。
一粒残さず吸い込むと、異空間への穴はスーッと閉じていった。
「これが異空間倉庫じゃ。収納中は時間が経過せぬのは……知ってそうじゃな?」
「創作界隈ではよくあるからね」
俺は猫神様から物作りに役立つ【生成】と、物を保管する【異空間倉庫】を授かった。